22「デライトさんは困惑気味です」②
「つーか、お前らは話題にしないように気を使ってくれると思うんだが、来ていたんだろ、あいつが」
「――っ、お父様、それは」
レイチェルのせいで弛緩していた空気が引き締まるのをサムは感じた。
誰もが、レイチェルでさえ、デライトを気遣ってナンシーのことを口にはしていなかったのだが、どうやら気付いていいたらしい。
「いや、いいんだ。俺もあいつに会うつもりはねえ。ただ、なんだかんだ上手く行っていたと思っていた関係が破綻したのも、俺が落ちぶれたせいだ。出て行ったことはもういい。ただし、フランを捨てて出ていきやがったことだけは許せねぇ。フランがあいつを許すまで、俺もあいつに関わるつもりはねえよ」
苦い顔をしてそう吐き捨てたデライトだが、サムにはどこか悲しそうに見えた。
「私には母親はいないと思っているから、和解もなにもありません」
フランははっきりとした拒絶を示した。
父を尊敬し、支えてきた彼女にとって、地位をなくした瞬間に見限って出て行った母親はとても許せる存在ではないのだろう。
結果として、ナンシーの行動がデライトにショックを与え、酒に走らせたことも原因であると思われる。
血の繋がりがあるからこそ、許すことができないのだろう。
そんな母親が、デライトが立ち直り、宮廷魔法使いに復帰した途端戻ってきたのだ。フランが怒りを抱くのはよく理解できる。
「そうか。それならいいさ。それにしても、よくあいつが大人しく帰ったな。会いたいわけじゃねえが、切羽詰まったからうちに来たんだろ?」
「あの、デライトさん。レイチェル様が追い返してくれたんですよ」
「そうなのか?」
サムが簡単な顛末を告げると、デライトが相変わらず腕を絡めて幸せそうにしているレイチェルに礼を言う。
「申し訳ない、レイチェル様。我が家の問題に巻き込んでしまったようで。そして、感謝します。サム、リーゼ、ステラ様も申し訳ねぇ」
「そんな、デライト様! 他人行儀なことをおっしゃらないでくださいませ! 妻なら夫のために、いいえ、家族のためになんだってしますわ」
「……それは置いておくとして」
「置いておかないでくださいな!」
「ったく、どうするりゃいいんだ、俺は。頭が痛ぇ」
「諦めればいいんじゃないですか」
「サム、てめぇ、人ごとだと思って」
(ぶっちゃけ、レイチェル様を止めることはできないと思うんだよなぁ。ただ、クライドお義父様たちがどう判断するのか、だけど。一番の問題はコーデリア第二王妃だろうね)
正直、コーデリア第二王妃によい感情はない。
初対面で一方的に上から物を言われたきりなので、よい印象を抱くのが難しい。
あのときは、今後関わることはないと思っていたのだが、まさかレイチェルがデライトに惚れてしまい、自分たちを巻き込んでこんなことになるとは予想もしていなかった。
(それにしても、セドリック様もレイチェル様も、面倒な恋をするのが兄妹だな……て思っちゃうよねぇ)
王族の結婚なんて恋愛感情がないと聞いたことがある。
もしくは、いずれ夫婦になるように幼少期から会わせて親しくさせておく、なども耳にする。
王族との婚姻を利用しようとする人間は少なくないので、可能な限り、友好関係のある貴族から子供を迎えることが一番いいのだ。
もっとも、ルイーズもデライトも、王族を利用しようと企むような人間ではないので、そのあたりは安心だろう。
他にも懸念すべきことがあるが、どうなっていくかはやはり本人次第だと思う。
「おーい」
いつまでもシナトラ家にいるわけにはいかず、どうするかと悩んでいると、馬車で寝ていたはずの花蓮がやってくる。
「どうしたの?」
「王家から手紙が来たぞ」
「は? 王家から、なんで?」
「デライトのおっさんに渡せって言われた」
「えっと、どういうこと?」
「わからない。馬車で寝てたらノックされて起こされて、デライトのおっさんに手紙を渡すようにって言われた」
(花蓮がノックされて起きたって……普段は警戒心が高い猫みたいに気配に敏感なのに?)
サムの動揺が伝わったのか、花蓮が言葉を続けた。
「見た目は普通の人だったけど、怖いくらい普通だった。気配がないし、匂いもしない、ちょっと怖かった」
「そりゃ、もしかするともしかするな。――げっ」
なにやら心当たりがあるのか、意味深なことをいいながら花蓮から手紙を受け取ったデライトが変な声を出した。
「陛下が明日、王宮に来いってよ」
「まさか」
「そのまさかだ。レイチェル様の立場を考えれば予想できたが……『影』がついていたようだ。こっちの出来事は全部筒抜けらしい」
「……『影』って、本当にいたんですね」
サムも実際に見たことはないが、王家の手足となり、完全に忠誠を誓う、影のような存在がいると言う。
大半の活動は情報収集だが、ときには表に出せないようなこともするらしい。
レプシーの墓守から解放されたクライドが、国を裏切っていた貴族をすぐに断罪できたのも、前もって『影』が情報を集めていたからだという。
(――気配はない。魔力も感じない。だけど、近くに可能性がある、か。怖い怖い)
周囲を探ってみるが、人の気配はない。
もしくはサムが見つけられないだけで、『影』が近くにいる可能性がある。
(やめよう。気にしたら負けだ)
サムは、『影』の存在を忘れることにした。
それよりも、デライトが王宮に呼ばれたことが問題だ。
「サムも来るようにって書かれているぞ」
「俺もですかぁ!? また巻き込まれたぁ!」
「逃さねえからな!」
「勘弁してくださいよぉ」
セドリックの件も解決していないのに、レイチェルのことでも大変になりそうな予感がするサムは泣きそうだ。
デライトも、サムを逃すまいとしている。
そして、当のレイチェルは、
「まあ、お父様ったら、わたくしとデライト様のことを祝福してくださるのね!」
頭の中がお花畑なことを言って喜んでいた。
長年姉に嫌がらせしていたキャラはどこに行ってしまったんだろうか、と思う。
「レイチェル、よかったわね!」
「はい、お姉様! わたくし、幸せになります!」
「いえ、あの、絶対に違うと思います」
妹を祝福するステラと、さすがにそうはならないだろうというリーゼ。
花蓮はよくわからないようだが、気にしていないようで、サムのお茶を勝手に飲んでのんびりしていた。
(一時はどうなるかと思ったけど、なんとか……なってないよねぇ。一番の気がかりは、フランさんがレイチェルをどう思っているのか、だよね)
問題は多数あるかもしれないが、サムには年下の義母ができるかもしれないフランの心情が気になるも、どう訪ねていいのかわからなかった。
(あとでリーゼ様に任せよう)
女性同士なら話しやすいと考え、リーゼに頼むことにする。
リーゼはフランと幼なじみであり親友だ。フランも、遠慮なく話ができるだろう。
(決して、丸投げじゃないぞ。うん)
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