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405/2010

19「自称妻VS元妻です」①




 大絶叫したレイチェルの口を、再びステラが塞ぐ。

 今度は逃げられないように厳重に、力強く、押さえつけた。

 静かになったので、代表してサムがフランに問いかける。


「えっと、つまりフランさんのお母様ですか?」

「残念ながらね。でも、父と私を捨てたこの女を、もう母親だなんて思っていないわ」

「あー、デライトさんが宮廷魔法使いに復帰したタイミングで現れたってことですねぇ」


 デライトが現在独身であることは知っていたため、驚きはしない。


(この人が、デライトさんの奥さんだった人で、フランさんの母親か)


 デライトとフランを捨てた母親が、今ここにいる理由をサムは察した。


「想像している通りよ。勝手に出て行って、商人と子供作って、愛人に負けて捨てられたからまた戻ってきたいそうよ」

「フランさんも、デライトさんも苦労しますねぇ」

「まったく良い迷惑よ」


 デライトのもとに関係を築こうと、縁談などが舞い込んでいることを知っているサムは、大変だ、と同情する。

 自分の場合も似たようなものだったが、ジョナサンがうまく処理してくれたので困ることはなかった。

 デライトの場合はフランが苦労しているようで、同情してしまう。

 特に、出て行った母親が舞い戻ってくるなど、とてもじゃないが心穏やかではいられないだろう。


「いい加減にして! 早く旦那様を連れてきなさいよ! フラン、あんた、母親に逆らおうっていうの!?」


 自分の都合通りに話が進まないことに苛立ちを隠せないナンシーが、またしても怒声をあげた。

 お世辞にも、デライトとフランの家族だったとは思えない態度だ。

 手入れの行き届いていない髪を乱し、唾を飛ばして、激昂する。もともとこうだったのか、それともシナトラ家を出てから変わったのか、サムにはわからないことだが、娘の前なのだからもっと母親としてしかるべき体裁をとるべきではないのかと疑問に思う。


「数年で人が変わったようね。本性が出ているわよ。それよりも、まず、すべきことがあるでしょう」

「なんのことよ?」


 フランの言葉の意味がわからないようで、首を傾げるナンシー。

 そんな母を一瞥すると、フランはレイチェルとステラの前に、恭しく膝をついて頭を垂れた。


「レイチェル・アイル・スカイ様、ステラ・アイル・スカイ・シャイト様、ようこそ我が家にいらしてくださいました。サミュエル・シャイト様、リーゼロッテ・シャイト様、お久しぶりね。どのような用事かはさておき、来てくれて嬉しいわ」


 あえてフランは、レイチェルとサムたちをフルネームと敬称をつけて呼んだ。


「フラン、顔をあげてください。幼なじみのあなたにそんな態度をとられると寂しいです」

「そうよ、フラン……わざとやっているのでしょうが、やめてちょうだい」


 リーゼの言葉通り、フランがわざと大袈裟に挨拶をしたことはサムにもわかっていた。その理由も、だ。

 フランの目論見通り、ナンシーが目を白黒させて、


「アイル・スカイ? まさか、王女……様」


 動揺を隠せないらしい。

 このタイミングで、レイチェルがやや強引にステラから再び逃げ出すと、胸を張って腕を組み、ナンシーのてっぺんから爪先まで見ると、はっ、と鼻で笑った。


「この程度の女と結婚していたとは、デライト様もおかわいそうに。フランチェスカのような才女が生まれたのは、デライト様の血が勝った証拠ですわね」


 と、突然、ナンシーに挑発を始めたのだ。

 相手が王女だと分かっても、一方的な言葉にナンシーが控えめながら言い返す。


「お、王女様といえ、いくらなんでも」

「なんですの? よく聞こえませんわ。もっと大きな声でおっしゃってくださるかしら?」


 だが、レイチェルの強気な態度に、言葉を途中で止めてしまう。


「……いえ、なんでもありません」

「ふん。ならば最初から黙っていれば良いのですわ。それにしても……自分からデライト様だけでなくフランチェスカまで捨てた女が、こうやって厚かましく戻ってくるとは、宮廷魔法使いへの復帰も喜ばしいことばかりではありませんわね」


 レイチェルも、一連のやりとりは見ていたのでナンシーがなにを目的にここにいるのは承知している。

 純粋にデライトを慕うレイチェルからすれば、支えるべきときに逃げ出した女が、よく顔を出せたものだと、呆れを通り越して感心さえする。


「そういえば、お名前を伺っていませんでしたね。――名乗りなさい」

「な、ナンシーと申します」

「そうですか。あなたがフランチェスカの母親でも、デライト様の元妻でもどうでもいいのです。わたくしは、デライト様に大切な大切な御用があって参りましたの。ですから、どうしようもない用事でないなら、早々にご帰宅なさい」


 レイチェルは目を細めて、ナンシーに冷たく言い放った。




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