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389/2018

3「ギュンターのその後です」




 ウルの爆弾発言に大混乱に陥った一同だったが、いち早く我に帰った公爵が、王宮に走り宮廷魔法使い紫・木蓮を連れてきた。

 木蓮の診断で、クリーのお腹に魔力を持つ生命が宿っていることがはっきりと確認されたのだ。

 サムも彼女の腹部から魔力を感じとることができた。まだ微弱なものだったが、間違いない。


「公爵様たちは大喜びだったよ」


 イグナーツ公爵家の跡取りのギュンターが偏愛しているのは、ウルとサムだ。前者は相手にしなかったし亡くなってしまった。後者に至っては、仮に相思相愛になろうとも子供はできない。

 正直、跡取りは無理だろうなぁ、と親戚から養子を取ることさえ考えていた公爵家にとって、クリーの存在は大きかったらしい。

 夜な夜なギュンターがおしおきと称していろいろされている声が聞こえていたので、もしや、と淡い期待をしていたのだが、子供ができたとはっきりすると大喜びだった。

「よくやってくれた!」と、公爵夫妻はクリーを抱きしめ、滂沱の涙を流した。


「俺たちもギュンターを祝ったよ」


 彼の周りを、みんなで手を繋いでぐるぐる回りながら「おめでとう」と祝福し続けた。

 結果、ギュンターは現実を処理できずに、泡を吹いて気絶した。


「そこからの公爵様は早かったねぇ」


 公爵は息子が気絶したのを好機と受け取ったらしく、早々にクリーとギュンターの結婚を大々的に宣言した。

 ギュンターが抵抗できない内に、王宮に報告までしてしまったのだ。

 これにより、クリーは正式にイグナーツ公爵家の嫁として迎えられ、第一夫人となった。


 男爵家の出身である彼女にとって、この扱いは本来破格の待遇である。

 サムたち周囲は特に気にせず、クリーを祝福したが、他の貴族はそうは思わなかったようだ。

 男爵家の小娘が公爵家の第一夫人になれるなら、自分の娘だって、と思う者や、私だって公爵家に嫁ぎたい、とクリーの待遇を知り妬んだ人間から連日見合いの申し込みが公爵家に届いているようだ。

 もちろん、公爵家が、そんな欲にまみれた人間を見抜けないはずがなく、すべて断っていた。

 そもそもクリーのようにギュンターを調――いや、手玉に取ることのできる女性などそうそういないだろう。

 ウルでさえ制御不能だったのだから、どれだけ難しいかわかる。


 クリーのようにギュンターをありのまま受け入れる度量と、同じ変態性を持つ女性でない限り、間違いなく一緒に生活することなんてできないはずだ。

 なによりも、クリーは純粋にギュンターを愛している。その気持ちが、一番大きいと思う。


「あの変態は、父親になったっていうのに、家に帰りたくないってガチ泣きしているよ。なんでも、クリーは実の娘同然に扱われているらしくて、あれ、これは元からだった気がするけど、まあ、なんというか居場所がないらしい」


 聞けば、使用人たちもお祝いムードで、ギュンターは実に居心地が悪いようだ。

 知らぬ間に結婚していたことも相当ショックだったようだ。


「純粋に慕ってくれる可愛い年下の嫁さんなんて、羨ましいと思うけどねぇ」


 貴族の結婚で、それもギュンターのような公爵家の跡取りという立場なら、愛のない結婚はもちろん、相手の打算なども関わるような結婚となるだろう。

 愛のない夫婦生活、仮面夫婦、だが世継ぎを作らなければならない、そう考えるとギュンターは幸せ者だ。

 クリーは心から彼を慕ってくれているのだから。

 イグナーツ公爵は、まだ生まれてもいない孫をギュンターの後継者とすると息巻いているし、夫人もクリーと実の親子のように良好な関係を築いている。

 クリーもとても幸せそうだ。


「現実を直視できないギュンターは、伯爵家の屋敷に作った自室に引きこもってぶつぶつなにか言っているよ。基本的に放置しているけど、まあ、その内クリーが迎えに来るみたいだからいいでしょ」


 サムは知らなかったのだが、クリーは実家の男爵領ではとても人気があったそうだ。

 ギュンターの子供を懐妊したことは実家にも伝わっており、彼女の両親は大喜びだ。

 そして、クリーのことを隠れて慕っていた人間は、がっくり膝をついたらしい。おそらく、ギュンターに辟易して戻ってくると思っていたのだろう。そして、あわよくばチャンスが、と企んでいたのかもしれない。


「ま、そんな訳でいろいろ賑やかだよ。ウルが望んだように、みんな笑顔で前に進んでいるよ」


 サムは笑顔でそう締めくくると、立ち上がる。


「俺もあと少しで成人だから、そのときは一緒に飲もうね。じゃあ、またくるよ」


 墓に手を振ってサムは背を向けて、家族が待つ屋敷に戻るのだった。




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