1「近況報告です」①
「――ウル、一週間ぶりだね」
ウルを亡くしてから一週間が経った。
不思議と、彼女を失った悲しさはない。
ちゃんとお別れができたいせだろうか、それともウルの分まで生きようと約束したからだろうか。
ただ、悲しさはなくとも、寂しさはある。まるで胸の中に空洞ができてしまったような感覚さえ覚える。
サムは今日、近況報告をするためにウルの墓を訪れていた。
ウルの亡骸は残っていないが、代わりに彼女が生前愛用していた私物をいくつか埋葬している。
墓の前に腰を下ろし、サムはそっと墓石を撫でる。
「新婚生活は順調だよ」
少し苦笑気味にサムは語った。
新婚生活は、とても順調だった。
さすがにウルと別れた日に新婚初夜を、とはいかなかったが、その後、花嫁達と無事に初夜を過ごすことに成功した。
「なんというか、いろいろ凄かったよ。あ、うん、女性のウルにこんなこと言うもんじゃないんだろうけど、他に言う人がいなくてさ」
実を言うと、ウルが懸念していたように花嫁内の序列というのはあるようだ。
リーゼたちが家族内で優劣をつけようとするのではなく、周囲がサムたち家族を勝手にそう見てしまうようだ。
そんなもん放っておけ、と思うのがサムだったが、意外とそう簡単な話ではないようだ。
サムは祖母ヘイゼルに呼ばれ、知りたくない貴族のドロドロした事情などを聞かされ辟易した。
ただし、序列というのは、なにも女性だけにあるわけではない。
男性たちにも無論あるし、学生にだってある。極端なことを言えば、仲間内でも序列というのは無意識に存在している。
ヘイゼルは、まずステラと初夜を迎えるように、と助言した。
王女だから、孫だから優先しろという意味ではなく、今まで陰でいろいろ言われてきたステラが、他の婚約者よりも初夜が遅いと、彼女を下に見る人間もいるかもしれないので気を使って欲しいというものだった。
正直、初夜の順番など外部に漏れないだろう、と思ったが、そうでもないらしい。
貴族の屋敷で働く使用人たちの情報交換などであっさりと漏れるらしい。
これは悪いことではなく、貴族間で情報収集に使う場所でもあるそうだ。
ただ、良くも悪くも情報は筒抜けなので、機密情報などは腹心の使用人以外に話すことはしないし、使用人たちも一線を超えることは早々ない。
もちろん、情報を引き出そうとする人間はいるし、ときには金を積んだり、脅したりということもある。
だが、大半は使用人たちがゴシップネタで騒ぐばかりらしい。
そんなわけで、サムが誰と初夜を迎えたなど簡単に把握されてしまうそうだ。
なにそれ怖い、とサムは話を聞いたとき身震いした。
「まあ、俺は器用じゃないからさ。あまりそっちには関わらないようにしておくけどさ」
使用人を管理するのは、貴族の女性たちの仕事であるらしい。
とはいえ、現在サムはウォーカー伯爵家で世話になっているので、リーゼたちがその辺りに気を遣う必要はないだろう。
いずれ国王陛下から下賜された屋敷に移る日もくるだろうが、しばらくはこのままの予定だし、のんびりしようと思う。
「で、誰と一緒に過ごしたかって気になると思うけど、ウルも助言してくれた通りにステラ様から過ごしたよ」
結局のところ、サムは悩みに悩んだ結果、婚約した順番でいいや、と思考を放棄してしまった。
みんなが大事であることは変わらないし、サムはみんなを心から愛すると決めていた。
結果的には、ウルやヘイゼルの推奨していた順番となったのだった。
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