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77「???」





「……おの、れ」


 とある世界の大陸深くに封印されていた「それ」は怨嗟に満ちた濁った毒のような声を発した。

 以前から目をつけていた「器」を奪われてしまった怒りは、久方ぶりにそれの感情を動かした。

 無論、よくない方向に、だ。


 呪詛を吐き出したくとも、口が思うように動かず。

 暴れ狂いたくとも、指さえまともに動かない。


「……お、のれ」


 全力を振り絞っても、たった一言さえまともに発することができなかった。

 それもそのはず、それは幾重の結界に身体を拘束されていた。


 身体は腐り、じくじくとした痛みを与えてくる。

 すでに肉体はないも同然だ。

 本来なら、精神がすり減り廃人となっていてもおかしくない、長い長い時間をそれは孤独に生きていた。

 眠ることもできず、動くこともできず、肉体も心も疲れ果て、絶望の果てに死んでいてもおかしくない。


 ――しかし、神ゆえに死ぬことはなかった。

 ――否、死ねなかった。


 それは死なない。

 食べずとも、飲まずとも、寝ずとも、生き続ける。

 たとえ、孤独に苦しもうとも、身体が腐ろうとも、生き続けてしまう。

 代わりに、心が死んでしまいそうになるが、それの胸の内側に宿る憎しみの感情があるおかげで、この長きにわたる封印を耐えていた。


 それの憎しみは呪いとなり、大陸の内側から染み出すように世界に広がった。

 魔法が死に、精霊が死に、死病が広がった。

 世界は、それによって呪われ、汚染されていた。


 そんな呪うことしかできないそれに、希望が現れた。

 長年探していた、「器」になるべく存在が現れた。

 素晴らしい才能と、生命力、そして魔力を持つ純血の人間だった。

 それは、喜んでその存在を汚した。

 のぞみ通りに、死を迎えた人間を奪い、自分のものにしようとした。

 だが、それは敵わなかった。


 それとは違う、別の力ある存在が奪ったのだ。


 視界が真っ赤になった。

 大切に育てていた果実を収穫寸前に苦労の知らぬ誰かに奪われてしまったような錯覚を覚えた。

 しかし、それができたことは、ただ一言を発することしかできない。

 また「器」を見つけるまで、この牢獄にいるしかない。


 再び呪いの声を上げようとした、それは、ふと何かに気づいた。



 ――そうだ、妥協すればいい。

 ――別に完璧な器でなくとも、構いやしない。

 ――ここから出ることができれば、それでいい。


 身動きできないはずのそれは、醜悪な笑みを浮かべた。




 ◆





「ったく、気持ち悪いっすねー」


 真っ暗な空間を眺めて、嘆息している少女がいた。

 年齢は、十代半ばに見える、黒髪の少女だった。

 少女は、うんざりした様子で、腐った肉塊を眺めしらけた顔をした。


「バレバレなんすよね。考え方が、単純というか、なんというか。つまらねー奴って、きっとこういうのなんだなーって、つくづく思うっすよ」


 黒い空間を眺める少女ではあるが、その少女もまたなにもない真っ白な空間にいた。


「よほどのことがなければ、お前はここから出られないっすけどねぇ。それわかっているっすか?」


 無論、目の前のそれから返事がくることはない。

 そもそも少女の声が届いていないのだから、返事がくるわけがない。


「お前は知らないかもしれないっすけど、もうお前の存在なんて誰も求めていないっすから。絶対にありえねーっすけど、仮に復活しても、誰もが口を揃えて、誰? って、首を傾げますからねぇ」


 はぁぁぁぁ、と少女は大袈裟に嘆く。


「かつては誰からも愛され、崇められ、求められた存在がこんなんなっちゃうとか、人間って怖いっすねぇ」


 やだやだ、と少女は大袈裟に肩を竦める。


「お前は時間と共に朽ち果てるだけっすよ。まあ、いやでしょうけど、こっちもお前なんかを見ていなきゃいけないので、お互い様ってことで。頑張って、早く死んでくださいね」


 少女が笑顔で、そう言い放つと、飽きたとばかり表情を消す。

 そして、なにもない空間に横になると、寝息を立て始めるのだった。




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― 新着の感想 ―
[一言] 個人的にかなり面白い作品に久しぶりに巡り会えたことに感謝。 ハーレム物は敬遠しがちだったけど、この作品は全然問題無いです。 欲を言えば、ロリ系の嫁も入れてほしいですね。全員主人公より年上だっ…
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