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73「衝撃の事実を残していきました」②




「この流れでどうして俺を見るかな!? しかもリーゼたちまで! あなたたち俺の奥さんになったんだよね!? まさかの裏切りだよ! ここはクリーでしょう!」


 サムの絶叫が響くと、一同の視線はクリーに向いた。

 みんなの視線を集めるクリーは困惑顔だ。

 無理もない。まさか、自分が妊娠しているなど思いもしなかったのだろう。


「あ、あの、ウルリーケ様?」

「悪いな。もっとちゃんとした場所で告げるべきだったんだが、どうせ私の最期が暗くなると思っていたから、空気を変えるためのサプライズにさせてもらった」

「とんでもないサプライズだね!」


 サムの叫びに、みんなが頷く。

 ギュンターなんて心臓が止まりそうな顔をしている。

 サプライズは成功なんだろうが、びっくりしすぎてウルとの別れではなくなった気がする。


(確かにしんみりしたのを避けたかったのはわかるけど、こんな微妙な空気にされても……反応に困るんですけど! つーか、ギュンターはやっぱりやることやってたんだなぁ。異世界でよかったね。現代日本なら、捕まるよ!)


「あの、ウルリーケ様、本当に、私のお腹に?」

「ギュンターの子供がいる。幸せになるんだぞ」

「――はい!」


 困惑の顔から一変し、クリーは花が咲いたような笑顔を浮かべた。

 しかし、まだ諦めの悪い男がいた。


「ま、まま、待ちたまえ、ぼ、ぼぼぼぼ、僕は、まだ清い体、で」

「嘘つけ」


 悪あがきをしようとするギュンターをウルが一蹴した。

 すると、ギュンターが頭を抱え、のたうちまわる。


「いやぁああああああああああああああああっ! 違うんだぁ、違うんだぁああああああああ!」

「違うも何も、子供ができているのが何よりの証拠だろう」

「僕だって抵抗したんだぁああああああ! だけど、この小娘がウルの幼い頃の服を着たり、サムに盛ろうとした媚薬を飲ませたり、あれこれしてくるから――僕はぁああああああああああああああああああ!」

「おい、こら、媚薬ってなんだ!」


 いくつか聞き逃せない事実があったので、思わずサムが突っ込んだ。

 ギュンターがウルの幼少期の衣服を持っているのは、驚きだが、想定内だ。だが、その服を着てギュンターに迫るクリーに誰もが驚愕を隠せない。


(なんていうか、手段を選ばない子だなぁ。うん。お幸せに!)


 自分に使われる可能性があった媚薬も消費してくれたようでなによりだ。

 サムは心から、ギュンターとクリーを祝福することを決めた。


「まあ、なんだ。こんな変態だが、大事な幼なじみだ。よろしく頼む」

「はい! ギュンター様を幸せにします!」


 クリーの決意に、ウルは満足そうに頷き、笑う。

 すると、彼女から発せられていた光の粒子がより輝いていき、体が透けていく。

 たまらずサムが叫んだ。


「ちょっと待って、ウル! まさか、こんな空気の中で満足して逝く気なの!?」


 そりゃないよ、とサムだけではなく全員が同感だった。

 少なくとも別れを惜しむような空気に戻りそうもない。

 だが、ウルは笑みを深めた。


「ばっかっ、お前らがしんみりするから、私からの気遣いだよ!」

「さすがにこの状況は気遣いを通り越しているよ!」

「あははははは、いいじゃないか。もう涙の別れは懲り懲りさ。二度目くらい、笑いながら逝かせてくれ」


 なんともウルらしい。

 彼女は強引に、自分の望んだ最期を迎えようとしていた。

 泣いていた者も困惑気味だし、ギュンターに至っては未だ地面を転がりながら無実を訴えているが、無実がなにかよくわからない。

 そんな一同に、ウルが最後とばかりに大笑いした。


「あははははははっ! あー、笑った笑った! 笑って最期を迎えられるなんて、やっぱり私は幸せものだ」


 ウルの体が粒子となって空気に溶けていく。


「――ウル!」


 サムが、最後だと大きな声をだした。

 最後の最後に、ちゃんと伝えたいことがあった。


「――ありがとう!」


 家を飛び出したあの日、ウルと出会ってから今日までのすべてに感謝しながら、気持ちを告げた。

 この短い一言に、どれだけの感情が込められているのかサム以外にはわからないだろう。

 ウルは、きょとん、とした顔をするも、優しいまるで母のような微笑を浮かべてサムの体を強く抱きしめた。


「――馬鹿なことを言うな。礼を言うのは私のほうだ。――ありがとう、サム」


 その言葉を最後に、ウルの姿は溶けて消えた。

 こうして、ウルリーケ・シャイト・ウォーカーは二度目の死を迎えたのだった。




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