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66「結婚です」①




 結婚式は、王都の街にある教会で行われた。

 サムは白いタキシードに身を包み、花嫁たちと向かい合っていた。

 結婚式は大々的なものにしないとなったが、花嫁が五人もいるのだ。しかも、四人が伯爵家の令嬢で、ひとりは王女ということもあって、身内だけでもそれなりに人はいた。

 教会の外には、なにかと最近話題のサムの結婚式に興味を持った住人たちが集まっている。興味本位のものから、花嫁花婿を一目見ようとする者まで様々だ。


 教会の内陣に並べられた椅子には、真っ赤なドレスに身を包んだウルをはじめ、家族と友人をはじめ縁者たちが祝福しながら式の進行を見守っていた。

 結婚式は順調に進み、国王の挨拶、誓いの言葉、指輪の交換をした。

 指輪に関しては、王家御用達の銀細工職人が同じものを六人分作ってくれた。


 そして、式は最後となり、愛の口づけを交わすところまできた。

 まず、サムが最初にリーゼ・ウォーカーの前に立った。


 リーゼのウェディングドレスは少しゆったりしたエンパイアラインと呼ばれるもので、花柄のレースがあしらわれた、彼女によく似合うものだった。

 妊娠してもスタイルのよさはまだ変わっておらず、相変わらずすらりとしている。

 そんなリーゼが、少し頬を赤らめながら口を開いた。


「似合っているかしら?」


 結婚式の間は、会話することができなかったので、こうして口づけをするために近づいたことでようやく彼女と話すことができた。


「とてもお似合いです。綺麗ですよ、リーゼ様」

「ふふふ、ありがとう。でも、そのリーゼ様という呼び方は今日でおわりにしましょう。私の夫になるのだから、リーゼと呼んでちょうだい」

「わかりました、リーゼ」


 改めて彼女の名を呼んだことで、夫婦になるんだな、と実感が湧いてくる。

 はじめて出会ったときは、あくまでもウルの家族としてだった。その次に、接近戦の師匠となり、姉のように接し、気づけば惹かれていた。

 心が結ばれ、肉体的にも結ばれ、今では彼女に命が宿っているのだから、人生何があるかわからない。


「ふふっ、少しだけくすぐったいわね」

「俺もです」


 サムとリーゼは笑い合った。


「心から愛しているわ、サム」

「俺も愛しています、リーゼ」


 ふたりは近づき、そっと唇を重ねた。

 サムとリーゼを祝福する声と拍手が響き渡る。

 とくにジョナサンは感極まっていて、号泣しており、グレイスが困った顔でハンカチを差し出しているが、彼女の瞳にも涙が溜まっているのが見えた。

 一度は不幸な結婚をしたリーゼが、幸せそうにしているのが嬉しいのだ。


「みんなのこともちゃんと夫らしく呼んであげてね」

「はい」


 サムは、名残惜しそうにリーゼから体を離すと、次の花嫁の前に立った。


「サム様、わたくしは今日という日を迎えることができて幸せです」


 頬を紅潮させてサムを待っていたのは、ステラ・アイル・スカイ第一王女だった。


「俺もです。ステラと一緒になることができて幸せです」

「――まあ。嬉しいです」


 ステラは、サムに呼び捨てされたことに驚いたが、その顔はすぐに笑顔になった。

 王女としてではなく、伴侶としてこれから歩んでいく実感を得たのかもしれない。

 そんなステラのウェディングドレスは、彼女の母親フランシスから譲り受けたドレスを手直ししたものだ。聞けば、元は祖母ヘイゼルのドレスであったという。

 ステラにとっての晴れの舞台なので、ウェディングドレスを新しく仕立てると言う提案もあったが、他ならぬ彼女が譲り受けたウェディングドレスで式に出たいと願ったのだ。

 そんなステラは、落ち着きのあるプリンセスラインの王女が着るにふさわしい鮮やかな青いウェディングドレスに身を包んでいた。

 白い肌と髪が良く映えていて、サムは式中にもかかわらず見惚れてしまった。


「サム様とお会いできたことに感謝します」

「俺もステラと出会えてよかったです」

「愛しています、サム様」

「愛していますよ、ステラ」


 白い頬を紅潮させたステラは、サムと口づけを交わした。

 再び拍手が響き渡る。

 とくに熱を入れて手を叩いていたのは、クライド国王だった。

 ステラを愛し、気にかけていた彼にとって、幸せそうにしている娘をずっと見たかったはずだ。

 髪色が白かったというだけで、謂われのない誹謗中傷を浴びていた娘の幸せを心から祈っているだろう。

 ステラはそんな父の視線に気づいたのか、満面の笑みを向けた。次の瞬間、クライドの両目から涙が溢れたのだった。




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