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43「魔王との邂逅です」①




 夏の日の城下町を、サムはひとりで歩いていた。

 最近はなんだかんだとウルと一緒にいる時間が長いサムだが、それ以外にも婚約者たちと一緒にいることが多い。

 そんなサムがひとりで街を歩く姿は、住民たちにとっても珍しく映ったようだ。

 顔見知りがサムに向かい声をかけてくる。

 そんな知人たちにサムは手を振り、ときに笑い返事をしていく。


「えっと、この辺だったよね」


 サムの用事は、暑くなったせいもあり食欲が落ちているリーゼのために、彼女の好物のクッキーを買いにきたのだ。


「リーゼ様が喜んでくれればいいけど。あと、みんなにもいろいろ買っていこうっと」


 最近、リーゼを過保護に、特別扱いしている気がしたので少し反省していた。

 リーゼも子供ではないのだ。妊娠しているからといって、あれこれ気にされてばかりだと気が休まらないだろう。

 サムは、気づいていなかったのだが、ウォーカー伯爵家で食っちゃ寝している灼熱竜にそれとなくアドバイスされたのだ。

 さすが夫と子供がいる竜だ、と感心した。


 だが、サムにとって初めての子供がリーゼのお腹にいるのだ。

 初めてだとか、初めてじゃないは関係ない。新しい命が、大切な女性に宿っているのだ。そりゃ心配だってするし、過保護になる、とサムは思う。

 とはいえ、実際される方は鬱陶しいときもあるのだとわかる。

 優しいリーゼはこちらに気遣ってしまっているのだろう、と反省した。


 父親になることは喜ばしいが、同じくらい不安であり、怖くもある。

 だが、今はとにかく母子ともに健康であってほしいと願うばかりだ。


「――ん? あれ、なにしてるのかな?」


 もう少しでリーゼの好きな焼き菓子店にたどり着くというところで、人だかりができていた。

 何事かと思い近づくと、サムに気づいた住民が声をかけてくる。


「シャイト様、今日はおひとりですかい?」

「そうなんだよ。ところで、これはなんの騒ぎ?」

「詳しいことはわからんのですが、少女が大男を言葉責めにしているらしいんですよ」

「なにそれ!?」


 思わず大声で聞き返してしまう。


「昼間っから城下町のど真ん中で……また変態が現れたのか」


 サムの嘆息に、住民が顎髭を撫でて笑う。


「スカイ王国はよくも悪くも個性的な人間がいますからね。確か、俺の祖父の時代は宮廷魔法使いが変人奇人ばかりだったと聞いていますぜ」

「うへぇ」

「シャイト様だって十分変わり者じゃないですかな。あのギュンター様と相思相愛とは……貴族様には平民が理解できねえ趣味嗜好がありますなぁ」

「いや、それはマジでやめて、マジで!」

「はっはっはっ、冗談ですって」


 冗談にならない冗談を言う住民に手を振ると、サムは人混みをかき分けて進んでいく。

 変態なら放置したいのだが、あとで問題が起きたと聞かされたら目覚めが悪いので、注意だけしようとした。

 すると、


「この屑っ! 雑魚っ! くそったれ!」


 闇のように黒いボリュームのある髪を伸ばし、黒いゴスロリファッションに身を包み、日傘を差した十代半ばほどの少女が、口汚い罵声を大男に発していた。

 少女は、不健康そうな病的に白い肌をしていた。美少女、と言っても過言ではない容姿をしているのだが、濃いアイシャドウが少々不気味に映る。

 きっとかわいらしいであろう少女は、言動と全身黒ずくめ、そして濃いメイクのせいで、異様な雰囲気を発していた。


「もういい加減に勘弁してくれ」


 そう情けない声を出したのは、三十代ほどの大男だった。

 褐色の肌に、これでもかと鍛えられた体躯を持っている。

 身長など二メートルを超える長身で、成長期なのだが未だ小柄のサムには羨ましい長身だった。

 ただし、そんな鍛えられた大男がゴスロリ少女にいいように罵倒され、蹴りを入れられている光景は、なんと声をかけていいものかと躊躇いが生まれる。


(放置しても、問題はないかな?)


 一見すると、喧嘩にも見えるが、両者は知己のようだ。

 ヒステリックに声を荒らげる少女に蹴られても、大男は平然としているし、自分が介入してことを荒立てるのも良くないかもしれない、と考えたその時だった。


 ――少女と男が弾かれたようにサムを見た。


 刹那、視線が混じり合い、濃密な魔力が両者から発せられた。


「――っ」


 全身に悪寒が走るような魔力を浴びせられ、サムは即座に確信した。


(やばい、こいつら――魔王だ)


 早すぎる魔王の邂逅に、サムは冷や汗を流した。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 六章 43「魔王との邂逅です」① 更新ありがとうございます。 [気になる点] 魔王に見つかったサムは、大丈夫なのでしょうか?! [一言] 次回の更新も、楽しみにしております。
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