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34「狩りに誘われました」




「ねえ、サム! 狩りにいきましょう!」

「へ? 狩り、ですか?」


 朝食を済ませ、サムが身支度を整えていると、間借りしている部屋にノックもなく入ってきたリーゼが、生き生きとした顔でそんなことを言った。


「庭でこぢんまり訓練しているばかりじゃ退屈でしょ? それなら、実戦よ、実践!」


 リーゼと訓練するようになって数日が経ちわかったことだが、このお嬢様はなかなかのお転婆だった。

 立ち居振る舞いは、剣術を習っていたこともあって凛としたたたずまいなのだが、どうもじっとしていられないというか、子供っぽいところがある。

 サムは、そんなリーゼを好ましく思っていた。


 堅苦しい人よりも、元気いっぱいなリーゼのような人のほうが付き合っていて気が楽だし、なによりも楽しい。

 なので、彼女の誘いを断る理由はなかった。


「いいですよ。どこかいい狩場を知っているんですか?」

「王都を出た西の森がおすすめね。あまり強いモンスターはでないけど、狩場としては優秀よ」

「へぇ」

「剣聖様の道場に通っていたころは、よくその森に行ったわ。懐かしいわ。剣一本でサバイバル……食料も寝床も現地調達だったのよね」

「たくましいですね、リーゼ様」

「剣聖様のもとで剣を学ぶならこのくらいどうってことはないわ。もっとも、根性のない人はさっさとやめてしまったけどね」


 聞けば、剣聖の弟子になることは貴族の中でひとつのステータスらしい。

 リーゼのように単純に剣術を学びたいという人間から、箔をつけるために弟子入りする人間まで多くいるという。


 剣聖は入門希望者をふるいかけることはせず、受け入れるらしい。

 だが、厳しく過酷な訓練についていけない者はあまりにも多く、とくにステータスを求めて弟子入りした貴族などはその筆頭だったらしい。


(まあ、剣一本で森の中でサバイバルとか、貴族のお坊ちゃんにはできそうもないよね。むしろ、逆に平気でこなせるリーゼ様がすごい。俺だって嫌だよ)


 できないことはないが、進んでサバイバルなどしたくない。

 そもそも、剣一本でサバイバルすることが、剣術とどう関わりがあるのか疑問である。


「じゃあ、さっそく行きましょう!」

「え? 今すぐですか? 準備は!?」

「なに言っているの。私とサムなら準備なんていらないでしょう? 水も食料も現地調達できるのよ」

「えー! せめて、お弁当くらい持っていきましょうよ!」

「お弁当を作ってもらうのを待つ時間がもったいないじゃない! 私とサムの足なら、今出発すれば、夕食までには行って帰ってこれるでしょう!」

「それはそうですけど」


 身体強化魔法を使えるサムはもちろんのこと、魔法なしで非常識な体力と脚力を持つリーゼなら、馬車に乗るよりも自分の足で走ったほうが移動は早い。

 サムはさておき、リーゼは本当に規格外だ。

 剣聖の道場に通うと、みんなこうなるのだろうかと、ついサムは首をひねる。


「だから食料は現地調達よ。さ、行きましょう!」

「ちょ、せめて最低限の準備だけでもさせてくださいよ! 狩りなんですよ、万が一があったらどうするんですか!」

「私たちなら大丈夫よ」

「そんな適当な」

「あら、適当なんかじゃないわよ。ちゃんと自分たちの実力を見て、あの程度の森なら問題ないって判断しているの。もともと私一人で数日生活できる森なんですから、サムもいれば万が一なんて起きないわ。というわけで、さ、いくわよ!」


 慎重なサムは最低限の準備をしたかったが、リーゼがそれを却下した。

 もう彼女は狩りがしたくてうずうずしているようだった。

 実を言うと、常にアイテムボックスの中には最低限の水と食料、テントなどが収納されている。

 リーゼもそのことを知っているのだ。


(……もしかして、リーゼ様って俺のこと便利な道具入れとか思ってないよね? ね?)


 若干の抵抗をしてみたものの、サムはリーゼに引きずられるようにウォーカー伯爵家から西の森へと向かうのだった。

 突然すぎて驚きはしたものの、なんだかんだとサムも久しぶりに思い切り体を動かせることに心を躍らせていたのだった。





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― 新着の感想 ―
[一言] 調味料食用油調理器具は持っていこう。 あとお米だ
[一言] 世の中の弟的立場とは便利な何かなんだよ❗
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