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330/2004

21「全部片付けます」③




「ウル、デライト様、お疲れ様です」


 軽やかに空から降りてきたサムがふたりに手を挙げ、挨拶をした。


「おう。お疲れさん」

「サム、もう終わったの?」


 ウルに問われ、頷く。


「はい。住人は例外なく殺しました」

「……そうか。嫌な仕事だっただろう」

「正直に言うと、気分の悪い仕事でしたよ。ですが、ナジャリアの民は滅ぼすべき人間たちでした。集落はあまりにもおぞましかった」

「あー、あれを見たのか」

「見ました。同じ人とは思えない。とくに貯蔵庫には……いえ、もうよしましょう。ウルとデライト様の魔法で全部燃えてなくなりましたから」


 サムがナジャリアの集落でなにを見たのか語らずとも、ウルは察してくれたようだ。おそらく彼女も、ナジャリアの民がどんな生活をしているのか知っているのだろう。

 最初こそ、いくら害悪であるナジャリアの民でも、非戦闘者の命を奪うことを大きな負担と感じていたサムだが、実際に彼らの生活や、当たり前にしていることを目の当たりにして、むしろ早急に排除すべきだと考え直した。

 何年も前に、一度はナジャリアの民を受け入れようとしたが、無理だった理由も今なら嫌と言うほどわかる。


「抵抗した人間はいたか?」

「いましたが、全員斬り捨てました。奴らを生かしておく理由が見つからなかったので、心が痛みません。あんな奴ら、野放しにしたら後で間違いなく後悔しますよ」

「ったく、嫌だ嫌だ、俺は集落に足を踏み入れずに正解だったな」


 デライトの言う通りだ。

 サムは、集落のすべてを見て回り立ち入ったことを後悔した。

 ナジャリアの民には、本当に戦士がひとりとしていなかった。

 老人と女子供だけだったが、数は多かった。

 ナジャリアの民は、最初こそサムが現れたことを理解できていないようだったが、すぐに敵対者だと判断したようだった。

 だが、誰ひとりとして戦わなかった。

 老人たちは、若い女を差し出すから見逃せと言い、女は自分の子を差し出すと言った。

 子供はなにを勘違いしたのか、集落から出られると喜び、いい暮らしをさせろと図々しく言い放った。

 不愉快なことに、ひとりとして、家族や隣人を守ろうとしなかった。自分がどうなってもいいから子供だけは、などと言う人間は誰もいなかった。


 サムは、そんな彼らを、人間だと思えなかった。

 ゆえに、何も抵抗なくすべて斬り捨てた。

 片目が見えず、片腕の感覚がなくともなにも問題などない。

 ナジャリアの民は、最後まで命乞いと言う名の命令しかしなかった。

 武器を取って自らの命を守ろうとさえせず、誰かに守らせようとしただけ。

 逃げ出した民も何人かいたが、みんなギュンターの結界から出れるはずもなく、ウルとデライトの炎によって焼かれて死んだ。


「はっきり言って、ゴブリンの群れと戦ったほうが意味がある気がします」

「宮廷魔法使いの仕事なんてそんなものさ。私だって、望まない戦いを何度もした。くだらないお守りをしたことだってある。だが、それが仕事だ」

「ウルが言ったように、俺たちはやりたいことだけをやることはできない。ときには、無抵抗の人間や、力のない人間の命を奪わなけりゃならない時もある。まあ、だが、それは宮廷魔法使いだろうと、騎士だろうと変わらねえのさ。国に仕えたんだ、国に従う、それだけだ」

「そうですね。理解はできています」


 ウルとデライトの言葉は正しい。

 気が乗らなかろうと、非道と取られたとしても、サムはスカイ王国の宮廷魔法使いだ。

 ならば、国のために魔法を使うだけだ。


「あまり難しく考えなくていいのさ。もちろん、言うことを聞くだけの人形になれとはいわないけど、スカイ王国に守りたい人たちがいる。なら、敵対する奴らのことなんていちいち考えてやる必要なんてないのさ。だって、そいつらが幸せになろうと不幸になろうと、私たちは痛くも痒くもないだろ」

「おい、ウル、それは極論じゃねえか。まあ、間違ってはねえが」

「大丈夫です。ナジャリアの民を全員葬ったことを気にしたりはしません。同じような敵がまた現れても、問題なく戦えます」

「ならばよし! じゃあ、帰ろう。家族のもとに」

「そうですね、早くリーゼ様たちに会いたいです」


 まだ数時間しか離れていないのに、何日も顔を合わせていないような錯覚を覚えてしまい寂しくなる。

 リーゼだけではない、花蓮、水樹、アリシア、ステラ、そし旦那様と奥様と、エリカや使用人のみんな。伯爵家で暮らす子竜と灼熱竜だって顔を見たい。


「私もだ。さーて、面倒な戦いは終わらせたから、残った時間を楽しませてもらうぞ! お前の体調が戻ったら、手合わせだ。お前がまだ使いこなせていない魔法を使えるまで引き上げてやる! あと、先生とも戦いたいな! ついでにギュンターもボコろうぜ!」

「はははは、そうしましょう」

「さりげなくギュンターをボコろうとするなよ。そういえば、あいつはどうしているんだ?」


 ナジャリアの民の集落を囲うように結界を張っていたギュンターだが、炎も納まり、すでに役目は終わっているはずだ。

 しかし、この場にいない。

 デライトだけではなく、ウルとサムも思い出したように「そういえば」と呟く。

 しばらく待っていると、ギュンターが煙の立ち上る集落の中から現れた。


「やあ、待たせてしまったみたいだね、すまない」


 白いスーツを煤だらけにした彼は、疲れた顔をしていた。


「問題でもあったの?」

「ふふ、サムが僕の心配をしてくれるなんて嬉しいじゃないか!」

「そういうのいいから」

「おっと失礼。食料となっていた人たちに情けをかけてきたところさ」

「……それって」

「想像の通りだよ。隠し貯蔵庫を見つけてね。肉体的にも精神的にも凌辱された人間が数名いた。生きてはいたが、死んだ方がマシだと判断して命を奪わせてもらったよ」

「そっか。他に見落としがないか確認したほうがいいな」

「いや、僕がすべて探知魔法で確認し終えたから心配ないさ。ただ、そうだね、ナジャリアの民の酷さは僕も知っていたつもりだったが、こうして目の当たりにすると辛くはあるね」


 ギュンターの疲弊の理由を知り、一同は目を伏せた。

 もう何度思ったかはわからないが、ナジャリアの民は滅ぼしてよかった。


「なら帰ろう。こんな場所に長居はしたくない」

「そうだな。その通りだ。よし! 帰るぞ!」


 気落ちした雰囲気をかき消そうと、ウルがわざとらしく大きく明るい声を出した。

 サムたちは頷き、王都に戻るため飛翔する。


 ――こうして、転生した少年は、最愛の師匠と出会い、別れを経験し、そして新たな出会いを経て愛を育んだ。

 スカイ王国最強の宮廷魔法使いとなり、敵対していた民族を滅ぼし、魔王を倒すまでに至ったのだった。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 襲い掛かってくる敵相手ならまだしも、後始末の虐殺で心が痛まないという弟子がいたら 諫めるのが師匠の役目ではないかと思います。 既にマニオンとヨランダが同じような醜態を晒しているので こ…
[気になる点] 「魔王レプシーの復活です」②で『サムは、すべての魔力を消費して、スキルと同時に腕を薙いだ。』ってすべての魔力を消費したのに、「全部片付けます」①で『サムは、恭しく国王に礼をすると、ウル…
[一言] そーいえば魔剣作ってたやつウルが復活したときにまとめてやられちゃったの?
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