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30「ウルの家族と会いました」④




 エリカに嫌われてしまったものの、ウォーカー伯爵家の娘たちの自己紹介を終えると、リーゼが部屋に案内してくれることになった。


「この部屋を自由に使ってね。あと、お風呂とかは使用人に言ってくれれば使えるから、いつでもどうぞ」

「ありがとうございます」

「いいのよ、お礼なんて。お姉さまの弟子なら、私たちにとっても家族同然でしょう」

「――っ、ありがとうございます」


 家族同然と言ってくれたリーゼに、サムは涙ぐんでしまう。

 愛する亡き師匠の家族に受け入れてもらったことは、サムにとってありがたいことだった。


「だから、お礼なんて言わないでって言ったのに」

「すみません。つい」

「ふふ、いいのよ。ねえ」

「はい?」

「大丈夫?」


 突然、問われてサムは戸惑った。

 リーゼがなにをして「大丈夫?」と聞いてきたのかわからなかったからだ。

 返事ができずにいるサムの両頬に、リーゼがそっと触れる。


「あ、あの?」

「お姉さまを亡くして、ちゃんと泣いた? 我慢してない?」

「……はい。ちゃんと悲しんで、泣きました。我慢なんてしてませんよ」

「なら、よかったわ。あなたは子供なんだから、泣きたいときには泣いていいのよ」

「俺なんかよりも、リーゼロッテ様たちのほうが」

「お父様とお母様は悲しんでいるし、泣いてもいたけど、私はあまり悲しくないの。ちょっと不謹慎よね」

「なぜですか?」


 家族を失って悲しくないわけがないと想う。

 リーゼこそ無理をしているのではないかと心配になる。


「お姉さまはきっと満足していたと思っているからかしら」

「どうしてウルが満足していたって?」

「あのお姉様ですもの。満足していなかったら、意地でも死んだりするもんですか。あなたという後継者がいて、楽しい四年間を過ごせたのだから、きっと思い残すことはなかったでしょう。だから、私は悲しまずに、お姉様を見送りたいの」

「リーゼロッテ様」


 彼女のことを強い人だと思う。

 自分ではとても真似できそうもない。


「もう、リーゼと呼んでって言ったでしょう。お姉様がかわいがっていたあなたのことをこれからは弟だと思うようにするわ。姉妹だけだったから、ずっと弟がほしかったの」


 そう言って微笑むリーゼは、とても優しげで魅力的に映った。

 ウルとはまた違う、でもどこか似ている、そんな笑顔だった。


「あ、ごめんなさい。私はお姉様をよく知っているからこうして平気だけど、あなたは悲しいわよね。そんなときに不謹慎だったわよね」

「いいえ、そんなことはありませんよ」

「そう? ならよかったわ。これからはあなたのことをサムと呼ばせてね」

「はい、リーゼロッテ様」

「もうっ、だからリーゼと呼んでと言ったでしょう」

「そうでした。はい、リーゼ様」


 恐れ多いが、愛称で名を呼ぶと彼女は苦笑した。


「できれば、様、なんてつけないで呼んでほしいけど、それは追々ね」

「そんな恐れ多いです」

「いっそ弟らしくお姉様って呼んでもいいのよ?」


 そんなことを言うリーゼは悪戯っ子な笑みを浮かべていた。


「あまりサムのことを困らせてもかわいそうだから、今日はこのくらいにしておいてあげるわね。じゃあ、今日はしっかり休んでね」

「ありがとうございます」

「機会があれば、お姉様とどんな時間を過ごしたのかも教えてね」

「もちろんです。ぜひ、お伝えします」

「楽しみにしているわね。じゃあ、またね」


 リーゼは手を振り去っていく。

 彼女の背中を見送ったサムは、静かに与えられた部屋の扉を開ける。

 そして、驚いた。


「うわぁ……さすが伯爵家。ど田舎の男爵家と比べたら失礼なくらい部屋が豪華だ」


 貧乏というほどではなかったが、ラインバッハ家と比べると実に豪華な部屋だった。

 ウルと旅をしていたときでさえ、日の国の王家の来賓として招かれたとき以来、こんな豪勢な部屋で寝泊りしたことはない。


 整えられたベッドに横たわっていいものかと悩んでしまうサムだったが、一週間休みなく王都を目指した疲れが溜まっていたので、少し休みたかった。

 ウルの亡骸を、無事に家族に引き渡せて安心したことから今になって体が休みを求めている。


 せめて身を清めてからと思ったが、結局睡魔に負けて、ベッドに倒れてしまった。

 目を閉じると、すぐにサムは夢の中に旅立ってしまう。

 不思議と、眠りは穏やかだった。

 最愛の人を失い、悲しみを忘れるように行動していたサムを、暖かく、そして親切に受け入れてくれたウォーカー伯爵家のみんなのおかげだろう。


 夢現の中で、サムはウルの家族に感謝する。

 そして、その日見た夢の中で、ウルが自分に「ありがとう」と言った気がした。





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