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298/2009

48「試合の後」①



 交流試合を終えた、その夜。

 疲れた顔をしたジョナサンが帰宅すると、サムたちを食堂に集め、試合後の話をしてくれた。


「まったく、大変だった」


 ジョナサンはワインを勢いよく飲み干すと、大きなため息を吐く。

 事後処理にあたっていた彼が疲弊しているのがよくわかった。


「旦那様、お疲れ様でした。それで、その後どうなりましたか?」

「あの異世界人のせいで交流会は終了だ。あれだけのことをしたのだから無理はない」


 葉山勇人は魅了の魔眼を持ち好き勝手やっていた。

 だが、サムに魔眼の片方を斬られてしまったせいで、女性たちの洗脳が解けることとなった。結果、彼は弄んでいた女性たちに復讐されることとなった。

 女性たちの怒りは収まらず、試合に出場した以外の女性たちも集まり、感情に任せて勇人を私刑にしようとした。

 だが、スカイ王国は私刑を許さなかった。


「痴話喧嘩……と言うには少々悪質ではあるが、手段の方法はさておき、男女の揉め事など他所でやれと言う話だ」


 女性たちの気持ちはわからなくもないが、スカイ王国内の、しかも王宮で私刑は認められない。

 ジョナサンたちは、女性たちを捕縛して見張りをつけた。

 見張りをつけた理由は、女性たちが万が一の行動に走らないように監視するためだ。

 スカイ王国側としては、これ以上揉め事を起こさずにオークニー王国に帰ってほしかった。


「もちろん、葉山勇人も捕縛した。サムたちは気に入らないだろうが、あのような悪人でも一応は客人だ。死なれてはこまるので、木蓮殿が治療をした」

「ていうか、弄んだ人たちに滅多刺しにされていたのに生きていたんですね。しぶといなぁ」

「呆れたことに、あの少年は自分が悪いことをしたという認識はないようだ。しきりに、なぜ自分がこんな目に遭うのだと叫んでいた。誰もが呆れていたよ」


 一応は、保護し、治療もしたが、また魅了を使われては困るため、両手足をベッドに縛りつけ、目を厳重に布と革で覆うことにした。

 また、魔法学園から魔眼に詳しい教師を招き、勇人に本当に魅了の力があるのか調べることとなった。

 魅了されていたとされる女性たちの「勝手に体と心が動いていた。それを見ていることしかできなかった」という証言と、眼球に宿る魔力から、魅了の魔眼であることが正式に判明した。


 ただ、サムに斬られた右目は治療されたにもかかわらず、魅了の力を失っていた。

 そこで、後日、葉山勇人のもう片方の魔眼も潰した上で、治療することで魅了を二度と使わせないようにすると、オークニー王国とスカイ王国が協議の末決まった。

 不幸中の幸いというべきか、魅了された女性たちの証言から、スカイ王国で魅了の被害にあった者はいなかった。

 どうやら勇人は、ステラを魅了することだけしか考えていなかったらしい。

 そんな勇人は、正式に勇者の称号を剥奪され、オークニー王国最強の座も奪われた。

 これにより、大陸最強の座も、試合に勝利したサムに引き継がれる形となるのだが、


「あんなぐだぐだの試合で大陸最強を認められてもなぁ」


 サムは素直に喜ぶことはできなかった。

 だが、せっかくなのでもらえるものはもらっておくことにする。

 サムはちゃんと勝利していないと言うが、勇人の聖剣を断ち割り、魔眼を潰したのは他ならぬサムである。勝者は、誰の目に見ても明らかだった。


「あの、お父様。葉山勇人の処遇はどうなるのですか? まさか地位を剥奪されただけですか?」

「いや、そうはならない。だが、困った事に奴の処遇は揉めているのだよ」


 リーゼの疑問に答えたジョナサンの言葉通り、勇人の処遇は揉めに揉めた。

 友好国の第一王女、それも婚約者のいるステラを魅了しようとした挙句、リーゼに対する侮辱をし、さらには試合中に魅了を使ってサムの婚約者を奪うと宣言したことは言い逃れできなかった。

 これには、ヴァイク国王が正式に謝罪した。


 勇人はオークニー王国でもやりたい放題だった。

 婚約者や恋人がいる女性をはじめ、第一王妃にも手を出している。

 今までは、手を出す方も出す方だが、応じる方も応じる方だと思われていたのだが、これが魅了だったとなると話が変わってくる。

 オークニー王国側も、好き勝手している勇人を止めようとしなかったのは、故郷から有無を言わさず連れてきてしまった罪悪感と、国を救ってもらった恩義があったからだ。しかし、勇人はやりすぎた。


 使節団の中にも、勇人に手を出された娘の父親や、息子が婚約者を奪われたという者もいる。さらには、婚約者や恋人、妻を奪われたという人間もいたため、誰一人として勇人を庇おうとはしなかった。

 死刑にしてしまえ、という声も上がった。

 スカイ王国側としては、死刑にするのは自由だが、オークニー王国に帰ってからにしろと告げる。

 だが、オークニー側の人間の中には、勇人を連れて帰りたくないと言う声も多数あった。

 だからといって、スカイ王国があのような人間の屑を受け入れるわけがない。


「改めて、とんでもない男ですね。オークニー王国側はそもそも魅了に気づかなかったんですか? いくら罪悪感があったからって、少しくらいおかしいと思ってもいいと思うですけどね」

「サムの言いたいことはわかる。実を言うと、ヴァイク国王は、薄々だが、葉山勇人になんらかの力があると感づいていたようだ」

「はぁ!?」


 聞けば、ヴァイク・オークニーは、貴族の子女が次々と勇人の恋人になり、さらには第一王妃までがのめり込んでいる姿を見て「なにかある」と察したようだ。

 おそらく、精神に作用する力であり、洗脳か魅了のどちらかだと考えていたらしい。しかし、確信がなく、また精神操作の力があったからといって対処のしようがないことから手出しできずにいた。

 もっといえば、好き勝手やっている勇人を止める戦力がいなかったのだ。

 そこで、ヴァイクは他国の誰かに葉山勇人を倒してもらえないものかと考えたのだ。


 勇人が自分の力を試したいと、ディーラ王女に頼んで他国の実力者と戦いたがっていたのは知っていたので、それを利用した。

 だが、結果は、勇人が大陸最強の座を手に入れただけだった。

 しかも、勇人の恋人が増えていく始末。

 いよいよ手が付けられない、とヴァイクが頭を悩ませたとき――サミュエル・シャイトの存在を知ったのだった。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 六章 48「試合の後」① 更新ありがとうございます。 [気になる点] 『いよいよ手が付けられない、とヴァイクが頭を悩ませたとき――サミュエル・シャイトの存在を知ったのだった。』 うわぁ…
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