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33「ステラ様との時間です」




 クライドの部屋からステラの部屋まで少し離れているが、そう時間がかかるわけではない。

 途中、もう顔見知りとなった近衛兵と軽く挨拶を交わして、ステラの部屋の前に立つと小さくノックする。

 もう寝ているようなら、そっと立ち去るつもりだった。


「どなたですか?」

「俺です、サムです」

「――サム様?」


 部屋の中から小走りで扉に近づいてくる小さな足音が聞こえる。

 しばらくして、静かに扉が開けられた。


「ステラ様、こんばんは。少しお話がしたくて寄らせていただきました」

「まぁ、嬉しいです。どうぞお入りになってください」


 ステラに勧められて彼女の部屋へ足を踏み入れる。

 もう何度かこの部屋を訪れているが、一国の王女の部屋というのはなかなか慣れない。

 しかも、今は夜も遅い。サムがステラの部屋をこんな時間に訪ねたと知れたら、誤解する人間もきっといるだろう。


「どうぞ、お座りください」


 ステラに促され、彼女と話すときにはいつも座る椅子へと腰を下ろす。

 その対面にステラが座る――かと思いきや、なぜか今日はサムの隣に彼女が座った。


「は、はしたないかも知れませんが、本日はその、サム様のお隣に」

「いいえ、嬉しいです」

「あの、それで、お話とは?」

「国王様から、今日の出来事を気にしておられると伺いました。先ほど、お会いした時も暗い顔をしていましたし、ちょっと心配で」

「……ありがとうございます。サム様にお気遣いいただけることを嬉しく思います。同時に、申し訳なくも思っているのです」


 暗い顔をするステラの方を向き、視線を合わせる。


「申し訳ないなんて、そんなこと言わないでください」

「しかし、わたくしのせいでサム様が決闘することに」


 やはり、今回の一件をステラは気にしていた。

 だが、彼女に非は微塵もない。


「違いますよ、ステラ様。全部、あの葉山勇人が悪いんです。恋人が複数人いるのに、ステラ様にちょっかいをかけるなんて、それが間違っているのです」

「――しかし!」

「まあ、強いて言うのなら、ステラ様が綺麗すぎるのが原因かも知れませんね」

「え? さ、サム様?」

「ステラ様は、誰がどう見てもお綺麗ですから。こうして向かい合ってふたりきりで話すのだって緊張するんですよ。だから、まあ、あの男がステラ様を前に自制できなかったと言われれば、無理もないですね」


 肩を竦めてそんなことを言うサムに、ようやくステラが笑った。


「ふふふ、サム様はお上手ですね。わたくしを褒めても何も出ませんよ」

「俺は事実を言っただけです。ステラ様は、初めて会った時から美しく、そして可憐です」


 サムの言葉を受けた、ステラはそっと身を寄せてきた。

 彼女はサムの肩に頭を乗せ、手を握ってくる。


「ならば、やはり私が原因ですね」

「ですから」

「サム様が決闘する原因を作ってしまったわたくしに、どうかお仕置きしてください」

「――え?」


 彼女の言葉に少し驚いたサムが、視線を向けると、そこには瞳を潤ませたステラがいた。

 彼女の求めているものがすぐにわかった。


「では、他国の勇者を惑わしてしまうほど、お綺麗なステラ様に婚約者からお仕置きです」

「――はい」


 サムは、そう言うと、ゆっくりとステラと唇を重ねたのだった。




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