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277/2017

27「勇者は馬鹿のようです」①




「はぁ!? 男まで妻とか、とんだ変態野郎だな!」


 隣国に所属する異世界人の少年の言葉に、ギュンターはふっ、と笑った。


「失礼なことを言う子だね。君だって、複数人の恋人を連れて歩いているじゃないか」

「そこじゃねえよ! 男を妻扱いしているのが変態だって言ってるんだよ!」

「――器の小さい男だ。男だから、女だからなど些細な問題じゃないか」

「些細な問題じゃない!」

「はぁ……聞いていて情けない。サムと比べて度量のない小さな男だということはよくわかった。これ以上、君と会話するのも無駄だろう。そろそろパーティーも終わる。君は君の恋人たちを連れて控室に戻りたまえ」

「――勇者である僕に命令するのか!」


 ギュンターは大きく嘆息した。


「するさ。君がどれほどオークニー王国で偉いのか知らないが、ここはスカイ王国だ。君は来賓だが、偉いわけじゃない。さ、わかったかな?」

「ふざけるな! 僕は勇者だ、選ばれた人間なんだぞ!」


 オークニー王国の勇者葉山勇人は、実力はあるのかもしれないが、思考が子供だとギュンターは肩を竦めた。

 成人している大人が、自分の立場を笠にきて喚く姿はみっともない。


(おっと、そういえば異世界では成人は二十歳だったような……まあいいさ、葉山勇人が愛しいサムを変態扱いした罪が消えるわけではないし、ステラに手を出したことも許されることはない)


「君もしょうがない子だね。もうすでに周囲の視線が集まっている。これだけでも恥を掻いているのに、まだなにかしようというのかい?」

「ここまで馬鹿にされて黙っていられるか! ――おい!」


 勇人の声に、彼の恋人たちが身構えた。

 武器こそ持っていないが、今にも素手で襲いかかってきそうだ。

 無論、オークニー王国ではそこそこの腕らしい、勇者の恋人たちだが、強力な結界術を持つギュンターにとっては脅威になり得ない。

 サムやウルリーケのような圧倒的な火力か、クリーのような恐ろしいスキルを持っていない限り、ギュンターにとって相手ではない。

 そういう意味では、異世界の勇者という存在は未知数だが、彼の恋人程度なら、攻撃全てを防ぎきる自信があった。


「ちょっと、やめなさいよ! これ以上問題をおこさないで!」


 唯一、聖女と呼ばれる少女――霧島薫子だけが止めようとするが、彼らの耳に彼女の声は届いていないようだ。

 唯一、この場を収めてくれそうなオークニー王国国王は、クライドが席を立ったと同時に、控室に下がってしまったため不在だった。


(さて、このまま揉めていいものか悩むね。しかし、サムが不在の中、彼の婚約者を守るのはこの妻たる僕の役目だ)


「しかたがない。やるというのなら相手になろう。さあ、ステラたちは僕の背後に。とくにリーゼ、君は身重だ。誰よりも、離れるんだ。いいね」

「ギュンター、あなた」


 不安そうな声をあげるリーゼにウインクする。


「サムがいなくてよかったよ。彼は僕よりも堪え性がないからね。王宮内で隣国の勇者が真っ二つにされても困る」

「ぐだぐだ言ってるんじゃねえよ! 僕を馬鹿にしやがって! このつけを支払わせてやる!」


 落ち着き余裕のある態度を貫くギュンターに、勇人がさらに怒りを募らせる。

 勇人は、この場がどこかさえも忘れて拳を振り上げた。

 が、しかし、その腕はぴくりとも動かなかった。


「なにやってんの、お前?」


 その手を掴む者がいたのだ。

 ――サムだ。


「――誰だよ! この手を離せ!」

「サミュエル・シャイトだ。以後、お見知りおきを、異世界人殿」

「……お前がサムか!」

「親しげに呼ばないでよ、友達だと思われたら困るだろ?」

「――っ、このっ、お前も僕を馬鹿にするのか!」

「してないけど、お近づきにはなりたくないかな。揉め事が起きているって聞いて飛んできたけど、喚いているのお前だけだよ。恥ずかしくないの?」

「お前! 勇人様に無礼なこと――」


 勇人の取り巻きである少女のひとりが、サムに詰め寄ろうとするが、一瞥されただけで膝を折り、その場に崩れ落ちた。


「お、おい、ディーラ?」


 動揺する勇人の目には、気を失って倒れている恋人の姿があった。

 なにが起きたのかわからず、動揺する声でサムに大きな声を出す。


「お前! ディーラになにをした!」

「……この程度のことがわからないのか。ま、いいや。もう終わりにしようよ。こっちも揉めるのは望まないし、ここ王宮だよ? これ以上、恥を重ねたくないでしょ」


 サムが手を離すと、勇人は跡ができるほど強く掴まれた腕を不快そうに摩った。

 忌々しそうにサムを睨みつけていた勇人だが、いいことを思いついたと言わんばかりに笑みを浮かべた。


「いいだろう。そちらが揉めるのを望まないのなら、条件付きで引いてやる」

「条件って、どうしてそうなるのかわからないんだけど」

「――ステラ王女を一晩貸してもらおうか! ついでに、リーゼとかいうお前の婚約者にも僕に奉仕させるんだ。それで手打ちにしてや――」


 勇人は最後まで台詞を口にすることができなかった。

 なぜなら、サムの爪先が彼の顎を蹴り砕いたからだ。




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― 新着の感想 ―
[一言] この回のサブタイ見て 『でしょーね!』って感想思った ギュンギュン、妻だって公言したら サムくんに迷惑だよ? また婚約者殿に再教育案件ですな 逃げても透過で迫ってきてくれる 良き婚約者殿だも…
[気になる点] そういえば、物語序盤でサムのスキルを発見したウルの鑑定的なアレはサムに引き継がれてないんでしょうか? スキルのアイテムボックスの引き継ぎができているので、鑑定的なアレが魔法であっても…
[一言] ダメ勇者っすね。 もう真っ二つで灰にしても良いかと〜
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