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273/2009

23「祖母とお会いします」③




 サムは、ヘイゼルに勧められて彼女とテーブルを挟む形で椅子に腰を下ろした。


「できることなら、あなたのお母様――メラニー殿にもお会いしたかったのですが、クライドにやめておけと言われてしまったので我慢しています」

「母に? 差し支えなければ、お会いしたい理由を聞いても構いませんか?」


 少し心配だった。

 まさかとは思うが、ヘイゼルがメラニーのことを快く思っていない可能性だってないわけではない。

 負い目があって息子と目すら合わすことができなかった母が、かつて愛した男と母、それも王太后になにか悪いことを言われてしまうのは酷である。


「お礼を言いたかったのです」

「お礼、ですか?」


 サムはつい聞き返してしまった。


「息子と結ばれることはなかったものの、こうしてサミュエルを残してくれました。苦労もしたと聞いています。そんなメラニー殿に、ロイグを愛してくれたことと、かわいい孫を残してくれたことに感謝していると伝えたかったのです」

「お婆さまにそう言っていただければ、きっと母も喜ぶでしょう」


 内心、安堵した。

 少なくとも、メラニーの負担になるようなことは起きないようだ。


「一応、誤解されないように言っておきますが、私はティーリング子爵とメラニー殿の仲を邪魔するつもりはありません。もうロイグはいないですし、苦労したメラニー殿は幸せになってほしいと心から願っています」

「お気遣い感謝します」


 サムは祖母に頭を下げた。

 母には母の人生がある。祖母の言うように、苦労した母には幸せになってほしい。


「さて、サミュエル」

「あの、どうかサムとお呼びください。親しい人はみんなそう呼んでくれます」

「……私が呼んでもいいのですか?」

「もちろんです。お嫌でなければ、ぜひお呼びください」

「――では、サム」

「はい、お婆さま」

「あなたが若くしてスカイ王国最強の宮廷魔法使いであることに、祖母として誇りに思っています。ロイグも生きていれば、我がことのように喜んだでしょう」

「よい師と巡り合えたおかげです」


 祖母が誇りに思ってくれることが素直に嬉しく思う。

 すべてはウルが導いてくれたおかげだ。

 彼女と過ごした歳月が、サムを強くしてくれたのだ。


「ウルリーケ・シャイト・ウォーカーですね。あの子は素晴らしい魔法使いでした。あれほどの逸材が若くして亡くなったことを残念に思います」

「……ありがとうございます」

「ですが、あなたがいます、サム。ウルリーケの分まで長生きし、幸せになりなさい。それが弟子としてできる最大の恩返しです」

「――はい」


 サムの返事に、ヘイゼルは満足そうに頷いた。


「ステラはいい人に巡り会えましたね。あの塞ぎがちだった子が、あなたのおかげで外に出るようになったと聞いた時には、あなたに感謝したものです。ですが、まさかステラと婚約したあなたが、私の孫だったとは当時は夢にも思いませんでした」

「あははは、俺もです。今も夢を見ているような感覚です」

「リーゼをはじめ、アリシア、花蓮、水樹のことも私は幼い頃から知っています。皆と幸せになるのですよ」

「もちろんです。俺は、みんなと一緒に幸せになります」


 すでにサムは幸せだ。

 素敵な婚約者たちと出会えたおかげで、また誰かを愛することができた。

 ウルが願ったように、祖母が言ったように、サムには幸せになる義務がある。

 婚約者たちと一緒に、もっともっと幸せになるのだ。


「そういえば、サムは王族の血を引いていますが、王族として扱われることはないそうです。クライド曰く、他ならぬあなたがそれを望んでいないゆえと聞いています」

「そうしていただけると気が楽です」


 サムは肩を竦めて苦笑した。

 宮廷魔法使い、伯爵位を授かっているだけでも分不相応なのに、これで王族としても扱われてしまえば、気が気ではない。

 無論、サムに王家の血が引き継がれているのは理解しているし、王族のステラと結婚する以上、王家とは切っても切れない関係になることは覚悟している。


「面白い子ですね。普通は、王族だとわかれば、皆が喜び、そう振る舞いたいと願うものです。過去には王族ではないのに、王家の血を引いていると名乗るものさえいたのですよ」

「俺には王族という立場は重すぎます。今の地位でさえ、分不相応だと思えてならないのですから」

「……私も無理強いするつもりはありません。あなたが王族として扱われようとそうでなかろうと、私の孫であることはかわらないのですから」

「そうですね。俺も、同じ気持ちです」

「すでにあなたは十分すぎるほど、国へ貢献してくれています。私は、祖母として、これからも変わらず、あなたがあなたらしく生きてくれることを願うだけです」

「感謝します、お婆さま」

「――ふふふ、私には孫が数人いますが、サムから祖母と呼ばれるのが一番心地がいい」


 ヘイゼルはそう言って微笑み、手を伸ばしてサムの頭をくしゃくしゃと撫でるのだった。


「今日はありがとう。あなたの貴重な時間を私のために割いてくれたことに感謝します。できることなら、また会いにきてほしいです。そうね、今度はステラや婚約者たちと一緒に、顔を見せにきてくれると嬉しいですね」

「はい、ぜひ、今度はステラ様たちと一緒に遊びにきます」

「その日を楽しみに待っていますよ」

「はい。どうか、その日までお元気で、お婆さま」


 こうしてサムは祖母と無事に良好な関係を築くことができたのだった。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] サムの今の地位さえ分不相応ってそれは 宮廷魔導士って地位が? それとも国内最強って地位が? でもそのどちらも目指して目標なのに、 その地位得たら分不相応って思うの おかしくない? […
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