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2「家族との再会です」②



「おっと、すまないね。僕としたことが、サムの魅惑的な尻に夢中になりすぎていたせいで、自己紹介もせずにいたね。失礼した。僕は、ギュンター・イグナーツ。イグナーツ公爵家の人間だ。まあ、そんなことよりも覚えておいてほしいのが、僕がサムの妻だということだ!」

「――妻ですか?」


 ギュンターの堂々とした宣言に、デリックが困惑顔で尋ねる。

 変態ははっきりと頷き、断言した。


「そう! 妻なんだ!」

「いや、妻じゃねーよ」

「イグナーツ様!」


 サムのツッコミが聞こえていないのか、胸を張るギュンターにダフネが近づく。


「ギュンターで構わないよ。君は、ダフネ君だったね」

「はい。ダフネ・ロマックと申します」


 急に見つめ合うふたり。


「え? なに? まさか恋しちゃったとかそういう展開? 嘘ぉ!?」

「いえ、サム坊っちゃま。そんなよいものではないでしょう」

「どういうこと?」


 なにかを察した様子のデリックに対し、サムはギュンターとダフネがなにを考えているのかわからず、しばらく見守ることにした。

 すると、視線を合わせていたふたりが、急に握手する。


「君とは仲良くできそうだ」

「私もギュンター様からは、同じ匂いがします」


 まるで長年の友人のように親しげにしはじめるふたりに、サムは困惑するばかりだった。


「え? なになに、なんなの? どうしてふたりが急に握手するの? ていうか、肩まで組んでる!?」

「はははははっ、まさかサムの傍にダフネ君のような人がいたとは」

「私もです。まさかぼっちゃまのおそばにギュンター様のような方がいたとは思いませんでした。――これも何かの縁です。お近づきの印に、坊っちゃまが幼少期に着用されていた下着です」

「――っ、これは……いいのかい?」

「もちろんです。友情の印としてお受け取りください」

「いや、待て、待て待て、なにしてるの!?」


 サムは大いに困惑した。

 ダフネの懐から取り出された、自分の幼少期のものらしい下着。

 それだけでも意味が分からないのに、ダフネはギュンターにその下着を渡してしまう。


(っていうか、なんでダフネが俺の昔の下着を今も持ってるんだよ!)


「素晴らしい……では、遠慮なく――すーはーっ、はすはすっ、ああっ、素晴らしいっ、甘露! 甘露だ!」

「やめろ、このド変態! ていうか、ダフネもなにしちゃってるの!? 変態に下着渡さないでよ! そもそも、どうして俺の下着を持っているんだよ! ダフネが王都に来るのに、俺の昔の下着を持ってきたのがびっくりだよ!」


 サムの叫びに、ダフネは困ったように首を傾げた。


「私はいつでもぼっちゃまの私物を持ち歩いていますが?」

「いや、首を傾げられても困るんですけど! えっと、なにこれ、ダフネってこんな人だっけ?」


 サムは混乱する。

 サムの記憶が正しければ、ダフネ・ロマックという女性は、母のように姉のように優しい人だった。

 どこかの変態のように、人様の下着を持ち歩くことなどしないはずだ。


「……サム坊っちゃま」

「あ、デリック! ダフネのあれ、どういうこと!?」


 サムの問いかけに、デリックは鎮痛な表情を浮かべ首を横に振った。


「ダフネはサム坊っちゃまの前では、取り繕いよき姉として振る舞っていましたが」

「が?」

「サム坊っちゃまが幼い頃から、虎視眈眈と貞操を狙っていた変態女なのです」

「――そ、そんな」


 サムが抱いていたダフネの印象が音を立てて崩れていく。

 いつも寄り添い、優しくしてくれた彼女が、まさか貞操を狙うような女性だったとは思いもしなかった。


「し、失礼なことを言わないでください、デリックさん! 私は、別に初物でなくても構いません!」

「そういう問題じゃないよ! ていうか、本当に狙ってたの!?」

「ええ、もちろんです。坊っちゃまが生まれた時から、とても美味しそうだな、と。もちろん、今でも狙っていますのでご安心ください。夜のお勤めもメイドの仕事ですから、うへへぇ」

「うわーっ、俺のダフネへのイメージがぶっ壊れるからやめて!」

「待ちたまえ、ダフネ君。僕よりも先にサムと結ばれるのは控えてもらおうか」

「お前は口を挟むなよ! ややこしくなるだろう!」

「承知しています。このダフネ、奥様を蔑ろにするつもりは毛頭ございません」

「――奥様……ああ、いい響きだ。なぜだか、ウォーカー伯爵家の使用人たちは僕を奥様と呼んでくれないんだよ。不思議だね」

「不思議ですね」

「不思議なのはお前たちの頭だよ!」


(まずい! ダフネが予想外にギュンターの味方だ! このままでは本当にやばい!)


 ダフネへの家族愛がこのくらいのことで変わるわけがないが、ギュンターと友情を結んだ彼女へ少々の警戒をしなければならない。


(あとでクリーにチクっておこう)


 ギュンターの婚約者で、彼の十八番とも言える結界術を難なくすり抜けることのできるスキルを持っている十二歳の少女クリーは、現在イグナーツ家で生活している。

 まだ幼いが意外としたたかであり、ギュンターのコレクションを人質にしてはいろいろお仕置きをしているらしい。

 夫婦仲が良くて結構だ。

 そんなクリーはリーゼたちと良好な関係を築いているため、よく伯爵家に遊びに来ているので、サムも頻繁に顔を合わせる。


(ギュンターめ、お前の好きにはさせないぞ!)


 サムは自らの尊厳を守るため、ギュンターの言動をクリーに告げ口することを誓うのだった。


「ところで、ぼっちゃま」

「ん?」

「奥様が生きていらしたと聞きましたが、事実でしょうか?」


 ダフネの問いかけにサムは頷いた。


「あ、うん、生きているけど、急に話変わるな、おい」

「生きていたのは大変喜ばしいのですが、友人として一度も連絡してこなかったことには少々腹を立てています」

「あー、だよね」


 ダフネとメラニーはよき友人であり同僚だったと聞いている。

 メラニーがラインバッハ男爵家夫人になったあとも、ダフネが支えていたそうだ。

 そんなメラニーが生存していたのはダフネも嬉しいことだろうが、連絡がなかったことは少々怒っているらしい。

 無論、長年記憶喪失だったので、そもそも連絡できなかったのだろうし、記憶を取り戻してからもダフネに連絡をしてしまえば、カリウスやヨランダに生存がバレてしまう可能性もあったのでできなかったのだろう。


「明日、会いに行くんだけど、ダフネも一緒に行く?」

「いえ、それはやめておきます。まずは、坊っちゃまからお会いするべきでしょう。私は、後日、ひとりの友人として会いたいとお伝えください」

「うん、わかったよ」

「ありがとうございます。まだ私にもやることはありますので」

「やることって?」

「ギュンター様にコレクションの自慢を少々」

「コレクションってなに!?」


 家族との再会は、想像以上に賑やかなものになったが、悪くない。

 ダフネとデリックが今後、王都で生活し、支えてくれると思うと心強くもある。


(早く、リーゼ様たちを紹介したいな)


 若干の不安はあるものの、大切な家族に大切な婚約者たちを会わせたいと願う、サムだった。




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― 新着の感想 ―
クリーを護衛に雇うべきだと思う。
[気になる点] ずっと続くホモネタ もううんざり
[一言]  とりあえず。  まさか、そういう化学反応を起こすなんて(T_T)。
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