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229/2009

54「ラインバッハ男爵の末路」①



 ラインバッハ男爵領、ラインバッハ男爵家に騎士団から派遣された空挺部隊の騎士が、武装した姿で乗り込んでいた。

 空挺部隊とは、飼い慣らしたワイバーンや、魔鳥に騎乗し空を翔る精鋭部隊だ。

 彼らの目的はただひとつ――カリウス・ラインバッハ男爵の捕縛だった。

 騎士たちは事前に把握していた屋敷の中を歩き、カリウスの書斎をノックもなく開けた。


「な、なんだ、貴様らは!」


 書斎の中には、カリウスだけではなく、妻ハリエットと息子のハリーもいた。

 騎士たちは内心舌打ちをした。

 これからカリウスを捕縛する姿を妻と子供に見せたくなかったのだ。

 しかし任務は任務であるため、このまま遂行しなければならない。


「――カリウス・ラインバッハ男爵。あなたを捕縛させていただきます!」

「な、なんだと!? 私を捕縛!? どういうことだ!」

「我々は、王立騎士団です。あなたを捕縛し、王都に連れて行きます。どうかご抵抗なされるな」

「私には騎士団に捕縛されるような理由がない!」

「いいえ、それがあるのです」

「なんだと?」


 カリウスが目を見開く。

 彼には本当に捕縛される理由が心当たりないのだ。


「ご子息、マニオン・ラインバッハ殿と奥様のヨランダ・ラインバッハ殿が、リーディル子爵家を襲撃しました」

「――なん、だと」


 絶句したのはカリウスだけではなく、ハリエットとハリーも同じだった。


「さらに、その前に、いくつかの村や町を襲撃し、罪のない領民を殺害、そして金品の強奪も行いました」

「……そんな、馬鹿なことが。本当に、マニオンとヨランダの仕業だと?」

「お逃げなさったことで難を逃れたリーディル子爵と御息女ルーチェ嬢の証言がございます。我々も、ラインバッハ領を訪れる前に、現場を確認してきました。間違いありません」


 カリウスは言葉もなかった。

 勝手に出て行って清々していたマニオンとヨランダが、自分の知らないところで子爵家を襲撃していたなど。

 特に理解できないのがマニオンだ。今のあれには、お世辞にも子爵領を巡回する兵士に勝てるような技量はない。

 そんなマニオンが殺人と強奪、そしてあろうことか子爵家の屋敷を襲撃するなど想像すらできなかった。


「や、奴らと私たちは関係ない。すでに縁を切っている」

「私たちはそれを判断する立場にありません。国王陛下の命令で、私たちはあなたを捕縛するために参上したのです。忠告しておきますが、抵抗するなら斬り捨てても構わないと命じられています。いかがしますか?」

「……捕縛に応じよう」

「賢明な判断です」


 騎士たちは内心安堵した。

 もしカリウスが抵抗したら、忠告通り斬り捨てる予定ではあったが、あくまでも捕縛して王都に連れてくるのが理想なのだ。

 マニオンやヨランダの言動を聞いていたので不安だったが、カリウスは意外と物わかりがいいようだ。


「だが、弁明の機会をいただきたい」

「それは国王陛下がお決めになることです」

「――くっ、マニオンめ! ようやく家を出て行ってくれたと思えば、馬鹿なことをしおって!」

「……あなた」

「お父様」


 拘束こそされないが、両腕を騎士に掴まれ連行されていく姿に、妻と子が不安そうな声を出す。

 カリウスは、愛する家族を安心させるために、頷いてみせる。


「問題ない。マニオンたちとはもう他人だ。すぐに戻ってくる」


 そう言い残してカリウスは王都へ連行された。

 そして、彼が妻と子に会うことのできた最後の瞬間だった。

 王宮に連行されたカリウスは、弁明の機会も与えられず牢に繋がれた。

 無論、彼は、マニオンと関係ない、釈明の機会を与えて欲しいと訴え続けたが、すべて却下された。


 本人はマニオンとヨランダとすでに他人で無関係だと思っているようだが、そうはいかない。

 彼の息子が大量殺人をした挙句、貴族の屋敷を襲撃し、盗みも行ったのだ。しかし、裁かれるべき本人はもういない。

 息子を唆したヨランダもすでに捕縛し、牢に入れてあるが、息子が死んだことを嘆こうともせず、自分は悪くないと訴え続けるので話にならない。


 ならば、カリウスが責任を取らなければならなかった。

 彼が関係ないと言おうとも、血を分けた息子と、かつて正室だった女性だ。

 自分の都合で、立場を返させていたようだが、そんなものは通用しない。

 そもそものカリウスの最大の罪は、ふたりを放置していたことだ。

 もともと問題がある人間だとわかっているのであれば、もっと目を光らせておくべきだった。

 そういう意味でも、カリウスの責任は重い。


 一週間ほど、牢の生活を強いられたカリウスに判決が下る。

 幸い、死罪になることはなかったが、男爵家は取り潰し、私財没収、挙句、カリウスは死ぬまで強制労働刑となった。

 もちろん、カリウスがその判決に納得するはずがなく、何度も弁明の機会を求めて訴えたが、すべて却下された。


 挙げ句の果てには、サムとの面会を求め出した。

 自ら死んだことにしたサムだが、彼は宮廷魔法使いであり伯爵でもある。サムならば、自分のために動いてくれると思ったらしい。

 国王陛下の覚えのいいサムならば、自分の窮地を救える――と、サムが自分のために行動してくれる前提で訴えた。

 しかし、その訴えは、サムに届くことなく握り潰された。


 いつまで経ってもサムが面会にこないことに痺れを切らし、暴れ始めたカリウスに面会する人物がいた。

 ジョナサン・ウォーカー伯爵だった。




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