48「マニオンと戦います」①
マニオンの怒声を無視して、魔剣を離したサムは、ジムの身体を抱き上げてそっと地面を蹴る。
子竜たちの背後に回ると、彼を地面に横たえた。
「サム様!」
「サム!」
婚約者たちが自分の名を呼んだ。
彼女たちが無事であることにほっとすると同時に、彼女たちを守らんと戦ってくれたジムに心から感謝する。
「アリシア様、リーゼ様、奥様……遅れてしまい申し訳ありません。まさか屋敷が襲われるなんて。しばらくしたらギュンターと旦那様も来ますので、それまではくれぐれも子竜たちの後ろから出ないでください」
「きゅるるるるるっ」
「お前たちも守ってくれていてありがとう。すぐ終わらせるから、もう少しだけ辛抱して欲しい」
「きゅるるっ!」
アリシアたちを守ろうと立ち塞がってくれていた子竜たちの頭を優しく撫でていく。
かつて灼熱竜から聞いた話では、まだ幼い子竜たちは竜としての強い力は秘めていても、戦闘経験はないらしい。
そんな子竜たちが、勇気を振るいアリシアたちを守ろうと立ち塞がってくれたことに感謝する。
サムは、みんなの方を向いて、安心させるように微笑んだ。
「すぐに終わらせますから」
返事を聞くことなく、サムは地面を蹴り、マニオンの前に移動する。
「――お前が、マニオンか?」
「ふんっ、久しぶりだな、サミュエル! 相変わらず女々しい顔をしているじゃないか!」
久しぶりに顔を合わせた弟だった存在が、いまいち記憶と結びつかない。
もともと記憶も薄れていたというのもそうだが、こうも堕落した姿を見せるとは思っていなかった。
魔剣使いと聞いていたのだが、サムの想像とまるで違うマニオンの姿に、少々面を食らってしまった。
「サミュエル! 少し名前が売れたみたいだけど、お前みたいな冴えない男よりも、マニオンのほうが価値があるのよ! 伯爵位と婚約者をマニオンに譲りなさい!」
「……そういえば、あんたもいたんだったな」
「あんたですってぇ! よくもこの私にそのような口を!」
喚き始めるヨランダは相変わらずのようだった。
男爵夫人程度では手に入らない煌びやかな高価なドレスと宝石を哀れなほど身につけたヨランダを見れば、彼女が貴族の屋敷を襲撃したついでになにをしていたのか一目瞭然だ。
「ていうか、意味がわからないんだけど。マニオンが魔剣を持っていることもそうなだけど、どうして俺が授かった爵位や、大切な婚約者を奪えると思っているんだ?」
「お前よりも、僕の方がふさわしいだろう!」
「なんで?」
「なんだと貴様! 僕に逆らうのか!?」
「あ、駄目だ、会話にならない。まあ、感情だけで口走っているだけだから、問われてもまともな返事ができないだけなんだろうけど。ま、いいや。さて、マニオン・ラインバッハ――お前にどんな理由があろうが、やりすぎたな」
感情をそのまま口に出しているだけの人間と会話が成り立たないと判断したサムは、早々に会話を放棄した。
凶行に走った理由なども聞いておこうと思ったが、どうやら自分から何もかも奪えると思ったことがきっかけなのは間違いない。
大方、ヨランダがマニオンを焚きつけ、事態が悪化していったのだろう。
ラインバッハ領ではよくある光景だった。
ただ、魔剣の出どころだけは不明だ。少なくとも、ラインバッハ男爵家にそんなものはなかった。
「なんだとっ!?」
「お前の父親がどんな教育をしていたのかわからないし、わかりたくもないが、お前も、お前の母親も、どいつもこいつも家族揃って頭のおかしい奴らだ」
「サミュエルのくせに僕を馬鹿にするのか!」
「いや、実際馬鹿だろ。これだけのことをしたんだからさ。あー、もういいや、黙れ。多分、口で言っても無駄だと思うから、殴って黙らせる。言っておくが、手加減はしない」
「――ぶっ、ぶふっ、ふひぃっひひひひひひひひっ」
膨れた腹を抱えて笑い始めるマニオンと、彼の背後ではヨランダも一緒になって笑っている。
よほどサムの言葉がおもしろかったらしい。
「お前が、僕に、手加減だって!? 昔から僕にいじめられて手も足もでなかったお前なんかに、なにができるんだよ!?」
マニオンの認識もあながち間違ってはいないだろう。
実際、かつてのサムはマニオンに好き勝手されていたのだ。
そのせいで、無条件にマニオンが自身を強者だと思い込んでしまっているのなら、それも仕方がない。
せいぜい、その勘違いに浸って気持ち良くなっていればいい。
「さあ、いい加減はじめよう。お前が好き勝手できるのは魔剣のおかげなんだろう? なら、その魔剣を叩き折ってやる、かかってこい」
「お前も馬鹿な奴だなぁ。黙って女と爵位を差し出していれば痛い目に遭わなかったのになぁ。いいだろう、少し遊んでやる。覚悟しろ、サミュエルぅううううううう!」
魔剣を構えたマニオンがにやりと笑った。
次の瞬間、サムが右腕を縦一閃に振るった。
「――キリサクモノ」




