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42「魔剣使いとその正体です」①




 ジムが風呂に入り、サムの服を借りて着替えると、アリシアを含めた三人でお茶を飲んでいた。

 屋敷にリーゼなどもいるようだが、ジムに気を遣って顔を出していない。

 グレイスだけは、あとで挨拶することをメイドから聞いている。


「改めて、すまなかった、アリシア」


 いろいろすっきりしたジムが、テーブルを挟む形でアリシアに頭を下げた。


「こうしてひとりの幼なじみとして接すれば、僕が勝手に思い描いていた君ではないことがよくわかる。とてもじゃないが、僕の知るアリシアは竜の背になど乗らない」


 今までとは違い、ちゃんとアリシアのことを見ることができたジムの表情は穏やかだ。

 簡単にアリシアへの想いをなかったことにすることはできないだろうが、今の彼なら前に進むことができるはずだ。

 そして、いずれはアリシアへの恋心も、ひとつの思い出となるだろう。


「わたくしも、ちゃんとジムに自分のことをお伝えするべきでしたわ。お母様やおば様が、わたくしたちのことを喜んでいる姿を見て、なにも言うことができませんでした」

「そうだな、言いづらかっただろう。だが、よかった。こうして、今はお互いにちゃんと気持ちを伝え合うことができる。なによりも、アリシアが幸せそうで、幼なじみとして嬉しい」

「ありがとうございます、ジム」

「うん。よかった。これで、僕も前に進んでいくことができる」


 満足そうなジムを見て、サムもホッとした。

 彼が自暴自棄にならず、理性的に行動してくれたことに感謝する。

 もしジムと揉めてしまったら、悲しむのはアリシアだった。


 その後もふたりは楽しそうに話をする。

 幼なじみとしての関係をやり直すように、お互いをちゃんと知るように。

 これからのふたりはよき幼なじみとして関係を築くことができるだろう。

 サムが、肩の力を抜いて、お茶を飲んでいた、その時だった。


「――サム! サムはいるか!?」

「旦那様?」

「お父様?」

「これは、おじ様の声か?」


 なにやら慌てた様子のジョナサンの声が屋敷中に響き渡った。

 何事かと思い、サムは立ち上がると、廊下に出て負けじと声を張り上げる。


「旦那様! 俺はここにいます!」


 しばらくすると、ジョナサンが小走りで姿を表した。


「おおっ、そこにいたのか、サム! すまないが、王宮に来てくれ!」

「王宮? どうかしたのですか?」

「お父様、もしかして、またサム様のことでお揉めになっているのですか?」


 王宮に来るように言われてサムたちが不安そうな顔をした。

 アリシアもサムの出自にまつわるゴタゴタをよく知っていたので、心配そうに父に問う。


「確かに、サムのことで揉めてはいるが、今は違う。宮廷魔法使いの、いや、王国最強の魔法使いの力が必要なのだ!」

「――行きましょう」


 サムは、なにが起きているのかも確認せずに返事をした。

 信頼するジョナサンが、自分の魔法使いとしての力を求めているのであれば、応じるだけだ。


「サム様!」

「大丈夫ですよ、アリシア様」

「ですが」

「ご心配しないでください。俺は強いですから」

「……信じています」

「ありがとうございます。あ、そうだ、急ぐようなので、リーゼ様たちに出掛けたことをお伝えしておいてください」

「ええ、承知しましたわ。ですが、本当に気をつけてくださいね」


 父親の慌て具合に、なにかが起きたのだとアリシアも察したのだろう。

 宮廷魔法使いの婚約者として引き止めることはしなかったが、それでも不安は隠せていなかった。

 サムは心優しい婚約者を落ち着かせるように微笑んでみせる。


「もちろんです。ジム様、申し訳ございませんが、俺はここで失礼します」

「気にしなくていい。僕もおば様にご挨拶をしたら帰らせてもらう。――ありがとう、サミュエル・シャイト。お前のおかげで、僕は前に進める」

「どうか、サムとお呼びください。ジム様、ぜひまた遊びに来てください。今度は、子竜たちと遊びましょう」

「それは遠慮しておく。アリシアの前で二度も漏らすのはごめんだ」


 サムとジムは苦笑しあった。


「お待たせしました、旦那様」

「いや、すまないな。アリシア、ジム、サムを借りていく」


 ジョナサンがそれだけ言うと、踵を返し歩き始める。

 サムは彼のあとを無言で追うのだった。




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― 新着の感想 ―
[一言] 国の危機とかじゃなくまた何かギュンターがやらかしてるんじゃないかと変な勘繰りしてしまう
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