122「綾音っちと白雪です」⑥
「ば、馬鹿な……」
信じられないという顔をして、綾音は小刻みに震えていた。
はぁ、と白雪がため息をつく。
「それはこっちのセリフよ。なんでびっくりしているのよ。こっちがびっくりよ」
「……てっきりチョロそうな白雪もサムの奥さんに」
「別に私はチョロくないですけど! お姉ちゃんと一緒にしないで!」
「べ、別に私チョロくないですけどー、全然チョロくないんですけどー」
「どうでしょうね」
白雪は止めていた手を動かし、食事を再開する。
かつて日本で食べていたパスタに舌鼓を打つ。
霧島薫子の作る食事を食べられるだけで、スカイ王国で暮らしている意味があるといえるだろう。
「食べながらじゃないと言えないけど、私はサムとどうこうなるつもりはないわ」
「……そうなの?」
「そうなの。お姉ちゃんと違って、私は最低限の関わりしかないもの。もちろん、友人として好ましく思っているし、戦友として信頼しているわ。とても感謝もしているの。でも、愛情を抱くことはないでしょうね」
冷静に、だが、どこか寂しそうな雰囲気で白雪ははっきり言った。
「ねえ、お姉ちゃん」
「なによ?」
「お姉ちゃんて、サミュエル・シャイトとサムエル・カイトって別人だと思う?」
「何言ってんのよ。別人に決まっているでしょう?」
「……私は、違うわ。あたまでは別人だとわかっているけれど、心が同じじゃないかって、つい同じところを探してしまうわ」
サミュエル・シャイトはサムエル・カイトの転生体であるが、同一人物ではない。
綾音はそれを何の躊躇いなく受け入れているが、白雪はまだ葛藤があるようだ。
そもそも彼女がサミュエルと一定の距離を取っていたのも、愛した人とそっくりだったからでもある。
「私はサムエルを手にかけたのに、そのことを忘れてお姉ちゃんを恨んでいたわ」
「女神のせいよ」
「それでも、自分を自分が許せないの。だから、この感情を整理できないと本当の意味で前に進めない」
「……そう。私にできることは?」
「ないわ。ありがとう。私自身が、時間をかけて乗り越えてみせる」
「しんどい時には相談しなさいよ。愚痴だっていいわ。姉妹なんだから遠慮しないで」
「……うん。ありがとう、お姉ちゃん」
綾音の気遣いに白雪は感謝した。
姉ならば、見るに見かねてとならない以上、自分から「どう?」とは聞かないだろう。
だが、声をかければ話を聞いてくれる。
地球でもそうだったと白雪は思い出した。
「ま、のんびりやりなさい、二十年くらい」
「……なんで具体的な時間設定があるの?」
「そりゃ、私がルーシェルを産んで成人したらあんたにアタックするからに決まっているでしょう!」
そう言って、綾音はいたずらっ子な笑みを浮かべた。




