95「アイリーンの日記です」②
――雨
母は兄から聞いていたとはいえ、私みたいな美少女がくるとは思わなかったようで驚いていた。私としては兄ができるのに妹ができないはずがないと思っているので、母を「よいしょ」して気分よく鍛錬を受けることになった。
――やめときゃよかったぜ、こんちくしょう!
地獄のような日々が続き、母は言った。「あんた、魔法の方が向いているわね」と。
今更!? と思った私を責める奴は斬首する!
母も母で「今気づいたわー」とか抜かしておる。許さん!
いずれ復讐するとして、私が攻撃魔法特化型だと知った兄が「はわわわわわ」と動揺しているのはなぜだろうか?
――曇り
母に名前を問われた。そういえば、名乗っていなかったなと思い出し、兄はルー。私はモアイと名乗った。なぜモアイなのか自分でもわからない。反射的に声に出てしまったのだ。
私はアイリーンのはずなのに……っ、まさか魂の名前なの!?
待って、解せない。なで母は笑っているの? 耐えているようだけど、ツボったみたいで身体を震わせて笑いを堪えているようだが、隠すならちゃんと隠してほしい。
私の魂の名前を……おのれ。
――はれ
まほうのくんれん
ちゅらい
――曇り
私と兄が子どもであることを隠して母と一緒にいることを知っている人間は多い。おそらく、生まれてからまともに相手にされていない子供が必死になって母親を求めているのだと思われているのだろう。
――大正解だ!
それはそうと、健気な子供を見守っていればいいものの、母の「事情」をわざわざ教えにきてくれる「自称」親切な大人が近づいてきた。
兄の前にも現れていたようだが、私のほうに来ることが多かった。
調べさせたが、とある貴族の奥方で金策をしたくて私に取り入りたいらしい。
まあ、それはいいんだけど、「事情」と「噂」のついでに「誹謗中傷」するのはよくなかったわね。
私の「事情」を知っているくせに、よくもまあ母の「誹謗中傷」を楽しそうに言えるものだ。
このおばさんはダンスの先生らしい。ついでに夫は城務めだ。そして、夫婦揃って金を着服していることが判明。はい、死刑。
顔を涙と鼻水とよだれでぐちゃぐちゃにして命乞いをしてきたけど、許さん。私は親切だから、お前の令嬢に手を出して責任を取らないクズな息子と、婚約者がいるのに男遊びがやめられない愉快な娘も一緒にあの世に送ってやるから喜ぶといい。
私って、なんて親切なんだろう。しかし、人の命を奪うことは気分が良くない。私の天使の翼は汚れてしまった。これからは漆黒の堕天使と名乗った方がいいのかもしれない。
――雨
母の過去の情報が集まったので精査してまとめてみた。
叔母さまを含めてあとで振り返った時に、ちょっと黒歴史になりそうな過去だと思う。
サムエル・カイトなる人物は、母も叔母も選ばなかったへたれだ。
兄が、両方選べばよかったのに、と言っていたが、論外だ。
貴族の結婚ならいざ知らず、習慣として関係ないふたりが結婚するなら一夫一妻としていちゃいちゃラブラブするのが当たり前である。
ちなみに、私専属のメイドは行き遅れなので、「側室でも構いません!」と鼻息を荒くしていた。
私もいろいろ良い相手がいないか探してみたのだけど、このメイドはイケオジじゃないと嫌だと駄々をこねるのだ。
白髪が似合う紳士なんてこの国にいねーよ! みんなハゲ散らかった超えたおっさんばかりだ!
メイドの好みのイケオジほど、愛妻家なので側室を求めていない。
――いや、待て。母の側近のひとりが独身のイケオジだ。
これは相談するしかねえ! 堕天使になっても基本は天使なので、アイリーン頑張る!
……ごめん、ちょっと可愛くしてみたけど無理だった。気持ち悪い。
――晴れ。
母にメイドとイケオジ騎士の話をしてみたところ、予定外に食いついてきた。
さすが我が母。そう言う話が好きですか。私も大好きです。
今は母と娘ではなく、同志として仲良くできそうな気がした。
嬉々として二人をくっつけようと作戦を立てる一方で、邪魔する奴らは追放だと企む私に、「あんた、悪役令嬢みたいよねぇ」と呆れた声で言われたのですが――悪役令嬢、なにそれ、胸にすごく響く。
――今日から私は堕天使を卒業し、悪役令嬢を名乗ることに決めた。




