78「じーじとばーばです」①
玉兎の説明を聞いたサムは涙が出そうだった。
父親になったからこそ、心の痛みがよくわかる。
「そりゃ確かにずっと放置したし、生まれてからまともに顔を合わせたこともないけどさ。反省しているんだから、許してとは言わないけど、せめてパパとして認識くらいはしてぇええええええええええええええええええええ!」
「とりあえず、温かいものでも飲もう? ね、ね? 中に入って」
「…………うん。ありがとう、あと、子供が生まれたことおめでとう。これ、お祝いの品」
「あ、ありがとう」
ものすごくタイミング悪くお祝いの品をもらってしまった。
サムは笑顔をきちんと浮かべられているだろうか、と疑問に思う。
「さあ、屋敷の中に入って。お風呂も入ってね。ほらほら」
贈り物をありがたく受け取ると、玉兎の腕を引いて屋敷の中へ。
(メルシーたちもきっと複雑なんだろうなぁ)
どちらの味方だけをすることはできないが、何かできることがないかと考えてしまう。
(アリシアに聞いてみよう)
ミルシーたちに一番懐かれているアリシアならきっと良い助言をくれるかもしれないと思った。
■
一方、食堂。
「ちょれでは、いざシャルロッテちんのところにいくでちゅ! 綾音っちちん、ボクちんを抱っこちてくだちゃい」
スカイ王国一の赤ん坊、ロバート・アイル・スカイが「あぶっ」と両手を綾音に突き出した。
綾音は心底嫌そな顔をする。
「……選ばせてあげるわ。あくまでも赤子に化け続けて私に殺されるか、素直に謝罪してジジィに戻るか。どっちがいいかしら」
「ボクちんは赤ちゃんでちゅので、たとえ殺されても変わることはできまちぇん。綾音っちちんの気が済むのなら、ちゃあ、ボクちんを殺せばいいのでちゅ!」
ロバートは抵抗しない、と椅子の上で大の字になった。
「……ふっ、いい覚悟ね。私の負けよ」
「わかってくれまちたか」
「ええ、謝罪するわ。あ、そうだ。ヘイゼルおばあちゃんを呼んでくるわね。あんたの奥さんでしょう?」
「ちょ、待つでちゅ! それはズルいでちゅ!」
ヘイゼルの名を聞いて、ロバートの顔色が悪くなった。
クライドとロイグの母にして、ロバートの正室であるヘイゼル・アイル・スカイは王宮に暮らしているが、ロバートは王宮から離れてひっそりと隠遁生活をしている。
ヘイゼルはロバートの性癖に理解があるようで放置してくれているが、ロバート的には負い目があるようだ。
「い、今、ヘイゼルちんがいるんでちゅか!?」
「そりゃいるわよ。産婆さんとして頑張ってくれたのよ」
「そ、そうでちたか。さすがヘイゼルちんでちゅね」
「サムも大変ね。おばあちゃんは素敵な方なのに、おじいちゃんがばぶばぶなんて」
「ちょ、ちょれは、なんといいまちゅか」
「同じおじいちゃんでも、カリアン様は素敵な紳士なのに……このジジィは」
「ボクちんも昔はナイスミドルだったんでちゅよ?」
「でも、そのナイスミドルな姿でばぶばぶ言っていたんでしょう?」
「――もちろんでち!」
「……ヘイゼルおばあちゃん、かわいそう!」
自分の旦那がばぶばぶであるのはどんな気持ちなのだろう!
綾音は叫ばずにはいられなかった。
そんな時だった、
「ふふふ、ご心配どうもありがとう。でも、意外と幸せな人生を送らせてもらっていますよ」
落ち着いた初老の女性、ヘイゼル・アイル・スカイが食堂に入ってきたのだった。




