76「玄関の外に玉兎がいました」①
――その頃、サミュエル・シャイトは来客中だった。
「……久しぶりだね、玉兎。どうして泣いているのか、教えて欲しいかな?」
灼熱竜の夫であり、メルシー、アーリー、ルーシーの父親であり、そして次期竜王の玉兎は、サムと戦ってからの友人だ。
ただ、メルシーたちが父親らしいことをしなかった玉兎を敵視しているため、対応は冷たい。
そのせいであまりウォーカー伯爵家にくることはないのだが、そんな玉兎が伯爵家にいることも驚きだが、玄関の外で「えっぐっ、えぐっ」と家を閉め出された子供のように泣いている姿を見つけてしまったので、声をかけずにはいられなかった。
「……えぐっ、サム……久しぶり」
「うん。久しぶり。どうして、号泣しているの?」
ハンカチを渡すと、玉兎はごしごしと目元を拭いた。
「もしかしてまたメルシーたちに手ひどくやられちゃったの?」
子竜三姉妹の潜在能力は高く、いずれは玉兎を超えるかもしれないと現竜王炎樹から期待されている。
特にメルシーは、時間こそかかるが、長い時間と経験を果てに炎樹に匹敵する力を手に入れるのではないかと予想されていた。
そんな実力のあるメルシーたちは父親に対してまったく容赦がないのだ。
いくら竜が頑丈であっても、人間であればバラバラになるような攻撃でボコボコにされる姿は哀れだ。
玉兎も娘が可愛いので抵抗できないのだが、これ幸いとメルシーたちの攻撃は苛烈を増していく。
特に、父親になったばかりのサムは、もし娘たちに同じことをされたら心が死んでしまう自信がある。
だからだろうか、玉兎に優しくしてあげたかった。
「……ぐすっ、ずびっ……俺さ、今、シューレン魔法国で親友のエミルのお手伝いをしているんだよ」
「あ、ああ、そうなんだ。仲良くなったって聞いていたけど、親友になっちゃったんだ」
「うん」
メルシーたちのいるお風呂に入ろうとするエミルと、メルシーたちに嫌われている玉兎が親友になっているのは摩訶不思議だ。
何か波長があったのだろうか。
「俺、頑張ったんだ。シューレン魔法国で、モンスター駆逐して、悪い奴らを灰にしてさ。今じゃ、女神エヴァンジェリンの眷属と讃えられるほどなんだぜ!」
「……玉兎がそれでいいのなら、俺は何も言わないけどさ」
自慢するように胸を張って言う玉兎だったが、次期竜王として眷属扱いはいいのだろうかと悩む。
「良いパパになるために、頑張ったのに……さっき、さっきさ、メルシーちゃんたちに会ったんだよ! そうしたらさ!」
玉兎が号泣する。
「――初めましてって言われた! もうパパとさえ認識されていない! 悲しい!」
「……それは本当に悲しいね!」




