73「綾音っちが遭遇しました」①
日比谷綾音は生まれた子供たちのもとに顔を出して、可愛い赤ちゃんの頭を撫でてご満悦だった。
「赤ちゃんって可愛いわねぇ」
「ええ、本当に。綾音っちもサムとたくさん励んで可愛い子供を産んでくださいね」
「……さすが貴族の令嬢ね。応援されるとは思わなかったわ」
「ふふふ。普通は嫉妬もするのかもしれませんが、みんな家族ですし。それに、一致団結しなければサムを倒せません」
「あー、まあね、なんというか死ぬかと思ったというか、死にかけたというか。うん」
「わかります。わかります」
綾音は「色々」あってサムと関係を結んでしまった。
お互いに後悔はしていないし、その後にきちんと「やり直し」もした。
婚約者にもなった。
だが、そのあとはない。
以前のような良き友人のような関係になっている。
男女の関係の意識はしているものの、子供が生まれるというのにいいのだろうか、という疑問がお互いにあったのだろう。
しかし、リーゼは全く気にしていないようだったので、少し肩透かしにあったのは言うまでもない。
「私たちはしばらく無理ですので、ここはぜひ綾音っちに頑張っていただきたいと思っています」
「……あのねぇ」
「ウルお姉様がせっかくアンチエイジングをしたのに二年の成長したのはサムのためとおっしゃっていますが、たぶん、勢いがないと一線は越えないとおもいますし、オフェーリアやゾーイは順序よくの方がきっとよいでしょう。ですので、綾音っちにお任せします!」
「で、結局そこに戻るわけね」
「いえ、無理を言うわけではありません。こういうことは気持ちが大事ですものね。ただ」
「ただ、何よ?」
「よくわからない女性がこれを機にサムに近づこうとするのなら、私は秘密兵器ギュンターとジュラ公爵を投入することもやぶさかではありません」
「それ脅し!? 脅してない!? さすがにそれはできないでしょう!?」
「…………」
「無言なのが怖い!」
実際、冗談であるのだろう。
ただ、サムを狙う女性が多いのは今も事実だ。
しかし、サムがリーゼたちを心から愛しており、政略結婚を良しとしない人間であることは有名だ。
彼と縁を結びたい者たちも、強引に話を持ってきて嫌われることを避けているのだろう。
代わりに、シャルロッテをはじめ子供たちに婚約の申し込みが多いようだ。
中には、サムの祖母ヘイゼル・アイル・スカイに仲介して欲しいと願う者までいるらしい。
もちろん、悪手である。
娘たちが生まれてからデレデレであるサムの子供に婚約を、なんて申込すれば敵認定されてしまうこと間違いない。
「はぁ。その時がきたら善処します。それでいいでしょう」
「さすが綾音っちですわ! 私たちは体調が戻り次第、サムとの再戦に向けて体力作りから始めなければならないので」
「アスリートみたいなこと言うのやめて?」
綾音が大きな声を出していても、すよすよ、と寝息を立てるシャルロッテは間違いなく大物になるだろう。
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「まったくリーゼだけじゃなくて会う子会う子がサムとの再戦をって……ていうか、再戦ってなによ再戦って! 普通に夫婦の営みっていいなさいよ! なんでバトルみたいにいうの!?」
綾音は頭痛を覚えながら、お茶でももらおうと食堂を歩いていると、目の前に何か影があるのに気づき顔をあげた。
「――え?」
己の目を疑った。
「―――あぶ!」
目の前には、赤ん坊がいた。
綾音に気づいて元気よく手をあげているのだ。
「ちょちょちょちょちょ」
なぜ赤ん坊がこんなところにいるのかと驚き駆け寄ると、優しく抱き上げた。
「誰の子!? なんでこんなところに」
「ありがとうでちゅ。この体では長時間移動できないことをわちゅれていまちた。サムちんのところにちゅれていってくれまちゅか?」
「…………え、なんで喋れるの? こわ」




