112「覚醒の時間です、か?」⑤
――甘いですね。
――コーヒーショップの甘いものよりも甘いです。
「……例えがよくわかりません。僕、そういうの飲んだことがないので」
――なんだかごめんなさい。
「謝らないで! なんか変な空気になっちゃった! というか、あなたはラッキースケベの意思のくせにどうして、さっきからなんでも知っている感じなんですか!?」
――私はラッキースケベの意思。
――他にもラッキースケベを持つ者のラッキースケベたちと情報を共有しているのです。
「ば、馬鹿な、僕の他にラッキースケベがいるだと!?」
――いますとも。
古今東西、ラッキースケベは常に存在しています。
「嫌だなぁ!」
――あなたは、歴代のラッキースケベを宿す者たちの中で、上位のラッキースケベを持っているのです。
「……心折れそう。ぽきって、折れそう」
――だからこそ、私の声が届くようになりました。
――しかしながら、使いこなせていない。
――あなたは、ラッキースケベを受け入れて、自らの意思でラッキースケベを使いこなせるようになれば……。
「なれば?」
――普通に、ラッキースケベが望まずに起きることが減ります。
「朗報だった!」
想像以上の朗報に、友也は立ち上がった。
碌でもないと思っていた、この邂逅もようやく意味らしい意味があるのだと感動さえ覚えた。
――今のあなたはラッキースケベを暴走させているのです。
――それゆえに、不必要なラッキースケベをしてしまいます。
「ぼ、暴走。まあ、暴走ですよね」
――自覚はありませんか?
――特にラッキーではないラッキースケベが起きたことが何度もあるでしょう?
「あります! 超あります! 何が悲しくておっさんにラッキースケベをせにゃいかんのです! アンラッキースケベですよ! ラッキー要素まったくないですから!」
――それが暴走です。
――本来ならば、ラッキーなスケベしか起きないのです。
「そうだったのですね。……しかし、その、ラッキーなスケベも起きないようになるという素敵な展開は」
――ありません。
――ラッキースケベはあくまでもラッキースケベです。
――ラッキーではないスケベがなくなるだけです。
「い、いいでしょう。それでもラッキースケベの三分の一いや、半分は減るはずです!」
全てとは言わずともラッキースケベが減ることはありがたい。
――では、ラッキースケベを受け入れる時間です。
――ちなみに、ラッキースケベを受け入れると、サミュエル・シャイトの「全てを斬り裂く者」でも斬れません。
「ぐっ……」
――二度とラッキースケベを手放そうなどという考えは起こさないようにお願いします。
――ラッキースケベは世界が与えた祝福です。
――数多の人間の中で選ばれた存在だけが、得る力なのですよ。
――勇者や聖女、魔王よりも希少です。
「……それなら勇者がよかった」
――覚悟は決まりましたか?
「いいでしょう。どうせ逃げられないのであれば、望まぬアンラッキースケベが減るだけでも儲け物です! 覚悟が決まりました! 僕はラッキースケベを受け入れます!」
長い時間がかかった。
本当に長い時間がかかってしまった。
千年の時を経て、魔王遠藤友也がラッキースケベを真の意味で受け入れる時が来たのだ。
――では、合言葉を。
「合言葉!?」
――ラッキースケベたいちゅき、と叫んでください。
――それこそ、世界が割れるくらいの声で。
――もうこれ以上出ないという大きな声で。
――さあ! さあ! さあ!
(絶対に、遊ばれている気がする! ええいっ、どうせ誰も聞いていないのなら、自棄だ!)
友也は大きく息を吸い込んだ。
「――ラッキースケベだいちゅき!」




