105「オフェーリアの悩みです」②
「あらあら、母親に対して悲しいことを言うわね……ママ、泣いちゃう」
「そういうのはいいので」
しくしく、と泣き真似をするイーディスをオフェーリアが淡々と相手にする。
「悩んでいるようだったから母親として悩みに乗ってあげようと思ったのに」
「別に頼んでいませんわ。そもそも……なぜお母様がこちらの屋敷に? いつの間に来たのですか?」
「少し前からいたわ。リーゼロッテたちに少し遅れてグレイスも出産でしょう。顔を見に来たのよ。それに、ロイグがシューレン魔法国に行ってしまったから暇で暇で」
「……ロイグ様と再会できて嬉しいのはわかりますが、ほどほどにしてあげてください。以前、カサカサになっている姿を見た時には驚きましたわ」
「安心してちょうだい。ちゃんと私から逃げていた時間分はしっかり搾り取るから」
「わたくしはロイグ様のお身体を気遣ったのであって、お母様のハッスルを応援したわけではありません!」
会話が成立しないことが嫌いなオフェーリアに、イーディスはわざとこういう話し方をして揶揄おうとする。
いっそ無視できればいいのだが、母の言動についツッコミを入れずにはいられないのが性分だった。
「さて、本題に戻りましょう。話は聞かせてもらったわ。オフェーリアがついにサムとの初夜を覚悟したのはいいことよ。結婚前にどうのこうのと文句言うやつはいるけれど、大きなお世話というもの。貴族の子女の中には政略結婚が決まると、慕っていた殿方と会って想いをぶつけたり、手紙を送ったり、お茶をするなど、触れなければいいという風潮が一部であるけれど、私的にはそっちの方がなしよね」
「確かに、そういう方はいらっしゃいますね。ご自身を悲劇のヒロインと思い込んでしまう、後で揉めるパターンですわね」
「そうそう!」
婚前交渉ははしたない、という子に限って、政略結婚が決まると悲劇のヒロインと変貌し、重い人に想いを伝えたり、なんなら奪いに来てほしいと願う子までいる。
妄想の中でそういうことを考えるなとは言わないが、実際に行動を起こしてしまう子がいるのも事実だった。
特に多感な十代の時に結婚が決まるとやらかす子が多い。
手紙を送って想いを伝える、会って伝えるくらいなら良いのではないかと思う人はいるだろうが、これが結構まずい。
例えば手紙を送ったとして、数年後、結婚して円満な生活を送り過去のはしかのような恋愛を忘れていた頃に、金の無心に――いや、過去の手紙を証拠に金を脅し取られることがあった。
例えば、想い人に最後のけじめとして会ったところを目撃されて、婚約破棄された子もいる。家には大きな迷惑がかかり、中には問題のある貴族の後妻になるしか選択肢がない子もいたし、勘当されて行方不明になった子もいる。
綺麗事を言う人間ほど、自分に甘いのだ。
――自分に酔ってやらかすくらいなら、婚約し、何があってもこの人と生涯を添い遂げると決めているのなら婚前交渉くらい問題ないだろう。
「オフェーリアがサムと合体するのは良いことだと思うわ」
「合体とか言うのやめてくれますか?」
「言い方なんていいんじゃない。でも、問題はサムのサムのサイズでしょう? わかるわ、私もロイグを若い頃に食べた時にちょっとビビったもの」
「あの、母親のそう言う話は聞きたくないのですが」
「でもね、意外となんとかなるものよ。だけど、怖いというのなら、ママに任せなさい」
「といいますと?」
「私が初めての日をお手伝いしてあげるわ」
「――結構です!」
「どうして!?」
断られるとは思っていなかったイーディスが衝撃を受けたような顔をした。
「……普通に、嫌です。それに、お母様の企みはわかっています。わたくしのためと言いながら、あわよくばサム様と」
「ぎく」
「わざとらしいことをしないでくださいませ! そもそもお母様はロイグ様と結ばれたのですから、サム様はもういいではありませんか!」
「違うわ、オフェーリア。あなたは誤解しているわ」
「どう誤解というのですか?」
「サムとオフェーリアが結婚すれば私は義母となるのよ。ならば義母として、可愛い息子がちゃんとできるのか指導が必要でしょう?」
「……ちゃんともなにも、すでにサム様は百戦錬磨の強者なのですが!」
「だからよ! ――敗北を知るべきよ」
「なんだかかっこいいようなことを言った気になっているようですけれど、娘の婚約者に手を出そうとする最低なこと言ってますからね!?」
「いいじゃない! 減るものじゃないし!」
「減ります!」
――この後、めっちゃ親子喧嘩した。
そして、翌朝。
「はぁ、はぁ、はぁ。いいでしょう。このオフェーリア・ジュラ! 誰にも頼ることなくサム様と無事に結ばれてみせますわ!」
シリアス先輩「あーあ、なんか焚き付けちゃった」
イーディスさん「すべて計算通りね」
シリアス先輩「本当は?」
イーディスさん「ママも仲間に入れてほしい!」
シリアス先輩「シリアスすぎだろ、この公爵!」
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