101「兄妹の理由です」
その後、魔法王の後釜を狙った貴族たちは、誰も彼も「私は悪くない!」と声を大にし、「私だけは助けてくれ」と定型分でも決まっているのかと思えてしまうほど同じことを皆が口にした。
結果して、全員の命が奪われた。
立場的に、従わされていた者たちは罰を一切与えないとグラインは約束した。
貴族であっても厳しく罰を受け、過ちを認めた人間や、強制的に徴収された者には慈悲を与えたグラインは「今までの王や貴族とは違う」としっかりと民の心に自分の存在を焼き付けた。
貴族をすべて粛清したわけではないが、爵位が高い貴族は善良な者か、野心がありながらもグラインに協力すると決めた者だけが残った。
これにより、爵位が低い貴族たちは、グラインに逆らうことはしないだろう。
「――とりあえずは、これくらいでいいさ。できれば貴族など全員殺してしまいたいがな」
そんなことを言うグラインも、自分の心の整理をする時間は必要だろう。
幸にして、彼は王としてやらなければならないことは多いが、愛の女神エヴァンジェリンたちのサポートがある。
まずは王都にいる民からはじめ、できるだけ早く地方の民も救わなければならない。
スカイ王国は同盟国として、力になれることは可能な限り手伝うとクライド・アイル・スカイが決めていた。
■
「――ダーリン」
「エヴァンジェリン、お疲れ様」
「お疲れ! ちょっと話があるんだけど時間大丈夫?」
「話? もちろん、いいよ」
ゴスロリファッションに身を包んだ、黒髪を伸ばした、濃いメイクの少女――魔王にして邪竜と恐れられながらも愛の女神として崇められているエヴァンジェリン・アラヒーだ。
サムはグラインから「ゆっくり休んでくれ」と言われてお言葉に甘えている。
友也は何か話があるようで、グラインと一緒に行動していた。
デライトはクライドのもとに戻り、報告をしているはずだ。
サムは先ほどまで元気になった子供と一緒に追いかけっこをして遊んでいた。
「ザイザルとジェレミーのことだけど」
「うん」
「私が預かることにしたわ」
「いいの?」
ザイザルもジェレミーも、グラインの温情で国外追放という形で許された。
腹違いとはいえ、兄弟を殺すよりも良い判断だと思う。
サムは一度、血の繋がりこそないがマニオン・ラインバッハを殺している。その時は、彼の自業自得である結果だったので、まったく後悔はしなかった。しかし、女神の使徒として復活したマニオンは以前のマニオンと違う。
初めて兄弟らしい会話をした。そのせいか、彼を殺したら後悔や罪悪感はないだろうが、少しだけ、本当に少しだけ心にモヤが残るだろう。
グラインはそんな思いをする必要はない。
「とりあえずジェレミーの方は着替えさせて、ザイザルと一緒に食事を食わせておいた」
「ありがとう」
「一応さ、なんでグラインを殺そうとしたのか聞いてみたんだよ。あいつらも話したいと思ったし」
「……どんな理由だった?」
「なんつーか、親の影響ってよくも悪くも大きいなって思ったかな」
「あー」
エヴァンジェリンの言葉で、だいたい察することができた。
「グラインもザイザルとジェレミーも、一応とはいえ国王の子供だ。しかし、扱いは平民と変わらない。子供たちにとって、大きな問題ではなかったのかもしれないが、親にとって、母親にとってはそうもいかないだろうな」
「だよね」
「それでも、ザイザルは王宮に王子として呼ばれる予定だった。だから、母親もそう悪い母親ではなかったらしい。しかし、ザイザルの代わりにグラインが呼ばれた。母親としては、面白くないだろうし、許せないだろうな」
「……だいたい展開がわかるね」
「よくある話、ということはしないけどさ、結局、母親はグラインと母親を憎んだ。呪いの言葉を吐き、ザイザルたちに呪いを継承させて、死んだ。残された子供たちにとって、無責任な父親以上にグラインを恨まないとやってられなかったんだろうな」
「本当に碌でもない男だ、あの男は。親としての責任を取ることもせず、何を考えていたんだか」
「推測だけど……楽しんでいたと思うぜ」
「……楽しむって、そんなこと」
「私はダーリンよりも長く生きているし、人間の嫌な面をたくさん見てきたから言える。権力を持ったバカは、人で遊ぶんだよ。心を弄ぶんだよ。自分の子供が、妻が、愛情に飢えて、権力に固執した結果、どんなことをするのか見て笑っていたはずだ。きっと、グラインを王子として選んだのも、一番無欲だったグラインを後継者にすることで他の奴らを焚き付けたんだろさ」
推測だけどな、と言いながらエヴァンジェリンの言葉には確信めいたものがあった。
グラインの友人を、本人の前で殺すような男だ。
自分の子供で戯れをするくらい、平気でやるかもしれない。
「そんなわけで、この国から出なきゃいけねえし、本人たちも出たがっている。なら、まあ、なんていうか柄じゃねえけど、手伝いをしてやろうかなって。ふたりも、魔法王を殺したダーリのいる国で暮らしたいって言ってるからさ。ビンビン陛下には許可はもらったんだけど、ダーリン的にはどう?」
「いいと思うよ。ありがとう、エヴァンジェリン。俺は、ふたりのことを気にはしても、何もできなかった。着の身着のまま放り出すようなことにならずによかったよ」
「おう、任せろ!」
頼りになるエヴァンジェリンに感謝を告げると、彼女は笑みを浮かべて親指を立てた




