100「兄と妹の結末です」
「お、のれ……貴様、の、ような……男が、魔法王に、なれるわけが、ない」
レイニー侯爵はそう言い残して絶命した。
「最初から魔法王になるつもりなどない」
グラインは言葉を吐き捨てた。
はじめから魔法王などという称号を残すつもりなどない。
あんなものがいた存在すら消してやろうとさえ思っている。
「あの男の名を呼ぶよりも、魔法王と呼んだ方がまだマシだから呼んでいるだけだ。いずれ、あの男も、魔法王もこの国すらなかったことにしてやる」
「まあ、落ち着きなってグライン殿。頭に血を昇らせていたら良い考えはできねえさ。ウチの陛下みたいにゆるくしろとは言わねえが、もっと肩の力を抜きなって」
「――っ、失礼した」
「いいさ。さてと、その貴族さんは俺としても殺すしかないと思っていたらいいとして、このふたりはどうするんだ?」
デライトがグラインを落ち着かせるように声をかけ、肩を叩く。
そして、ザイザルとジェイミーに視線を向けた。
「…………」
「――ひっ」
ザイザルは自分たちを売ろうとしたとはいえレイニー侯爵があっさり殺されたことに動揺し、口をぱくぱくさせている。
何かを言いたいようだが、言葉が出てこないようだ。
ジェイミーに至っては、目の前で人が死んだことに恐怖し、悲鳴をあげ、失禁した。
「正直迷っている。理由はどうあれ、このふたりは俺の命を狙った。俺の命などどうでもいいが、その結果国がどうなるのか考えていないことが腹立たしい」
グラインの怒りは命を狙われたことではない。
魔法王がいなくなったからと、喜び平和を求めるのではなく、誰が次の魔法王になるのか争おうとしたことだ。
誰も民のことを考えていない。
それが、この国の貴族であることに、失望と落胆、そして憤りを覚えていた。
「できることなら、憂はここで絶っておきたい」
「いいのか? 一応は兄弟だろう?」
「クライド殿、私には兄弟は多いが、顔も名前も知らぬ者ばかり。いちいち情を持っていたらキリがない」
デライトは肩をすくめた。
サムは、弟と妹を殺すなというつもりはないが、グラインが手をかけてしまうのはどうかと悩んだ。
ギュンターは彼らに対して興味がわかないようだ。
友也は、この状況で問題行動をしでかしたら一大事なので地面に座ってじっとしている。
(――どうしたものか)
憂を断つということなら、賛成だ。
短慮なことを平然とやったふたりが、今後同じようなことをしないとは限らない。
無論、するとも限らない。
「グライン殿、とりあえず、このふたりにその男の死体を見た上で、まだ抵抗する気があるのか、降伏し、服従するのか聞くくらいはしてあげましょう。殺すならいつでもできる」
「サミュエル殿……そうだな。わかった」
サムには、グラインが悩んでいるように見えた。
ここでの結果によって、彼は苦しむかもしれない。
友を失い復讐に身を費やしてきた優しくも悲しいグラインが、余計な重荷を背負うのは見ていられなかった。
「ザイザル、ジェレミー、腹違いとはいえ兄として最後の情けをかけよう。降伏し、服従しろ」
「…………ふ、ふざけるな。僕は、決してお前の下にはつかん! 私は王になりたいわけではない! 僕からすべてを奪ったお前を絶対に許さん! 生かしておけば、絶対に殺してやる!」
「お兄様!? おやめください、グライン様! どうか、お兄様を殺さないで! 私を殺して構わないから、お兄様だけは!」
「――ジェレミー!?」
ザイザルは妹がこんなことを言うとは思っていなかったのだろう。
驚きに包まれている。
「よく言った。ふたりとも、見事だ。お互いに嘘偽りない思いなのだな。――ザイザル、俺はお前を許してやろう。代わりに妹の命をもらいうけよう」
「やめっ、やめてくれ! 頼む! 服従でもなんでもする! 忠誠を誓う! だから、僕から家族を、最後の家族を奪わないでくれ!」
「――駄目だ。お前は選択を誤った」
グラインは容赦無く剣を振るった。
サムたちも止めなかった。
止める必要もなかった。
「ジェレミぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
背中から倒れる妹の名を叫ぶザイザルに、グラインは冷たく言い放つ。
「妹に感謝して生きろ。今日、ザイザルとジェレミーは死んだ。以後、この地に立ち入りることは許さん。もし、一歩でも足を踏み入れてみろ。次は絶対に兄妹揃って殺す」
「グラインっ、貴様――え?」
妹を斬られて激昂したザイザルだったが、グラインの含みのある言葉に疑問を浮かべた。
その時、倒れたジェレミーが弱々しい声を出す。
「……おにい、さま」
「ジェレミー!」
グラインが器用にザイザルの縄だけを斬った。
自由になった瞬間、ザイザルはグラインにではなく、妹にかけよる。
「ああっ、よかった! 生きているのだな! すまない、私は、私は家族を失うところだった。愚かな兄を許してくれ!」
涙を流し、妹の無事を喜び、己の感情を優先した自身をザイザルが嘆く。
「サミュエル殿、すまないが、ジェレミーに回復魔法をかけてやってほしい。軽く剣の腹を当てるつもりだったが、意外としっかり当たってしまった」
「お任せください」
「感謝する。よく聞け、ザイザル、ジェレミー、お前たちはもうこの国も貴族でも王族でもない。民でもない。こんな国のことなど忘れ、生きたいように生きろ。俺が兄としてしてやれることはなにもない。――すまんな」
グラインは悲しげにそういうと、剣を鞘に納め背を向けるのだった。
シリアス先輩「うん? これ保護? 保護る? 保護るの? つまりサムくんの嫁入りでしょう?」
サムくん「ちっげーよ!」
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