98「降伏のようです」②
レイニー侯爵を名乗ったのは、五十歳ほどの白髪混じりの茶色い髪の男性だった。
見なりこそいいが、背が低く痩せている。
どこか自信がないのか、おどおどし、挙動不審だ。
(……明らかに予定と違って動揺しているな。よく王になろうなんて思えたものだよ)
他にも、侯爵の護衛と付き人が一緒だが、全員が無関係だと言わんばかりに下を向いて震えている。
唯一例外なのが、二十歳前後の男女だった。
おそらく、グラインの腹違いの兄妹なのだろう。
睨むようにこちらを見ている。
この中で一番、肝が据わっているのはふたりだろう。
「……デライトさん、他の貴族は?」
「見張りをつけて兵士たちに見張らせているぜ。抵抗するつもりもないようだ。ま、俺だって抵抗しないさ。逃げ出そうものなら背中から斬り殺されるとわかっているんだ。大人しくして神に祈るくらいしかできないじゃねえのか」
「……神と戦う身としては、なんだかなぁ」
サムとしてはデライトの皮肉に笑うしかない。とはいえ、今、相手にするのはレイニー侯爵たちだ。
一応、侯爵と兄妹は拘束こそしているが、椅子に座らせている。
他の面々は、地面だ。
「さて、レイニー侯爵。まずは、お久しぶりと言っておこう」
「……グライン、様」
「まさかレイニー侯爵に様づけをして呼んでいただけるとは光栄だ。確か、数年前に、母と俺を侮辱された記憶があるが」
「そ、その節は、大変申し訳なく」
「冗談だ。俺はあなたを最初から気になどしていない。侯爵という立場以外何も持たず、気弱なレイニー侯爵。正直に言えば、コーレン公爵の前に、あなたたちが来てくれたほうが見せしめに殺すにすっきりしたものだ。俺は、あなたが大嫌いなのでね」
「…………お許しを」
グラインは、事前にわざと口汚い言葉を吐くことをサムたちに伝えているが、私怨がゼロではないようだ。
だが、気にするほどではない。
正々堂々と真正面から来た公爵ならいざ知らず、隠れて様子見をして、勝てないとわかると降伏する。
冷静さを持ち、状況に応じてすべきことをしているのだろうが、好感はあまりにも低い。
「ははは、まだ話をちゃんとしていないのに謝罪されても困ってしまうな。まず、顔を上げろ。俺の目を見ろ」
「……は、はい」
「あなたは以前からそうだな。見下す相手には、これでもかと強気だが、少しでも勝てないとわかると相手に顔さえ見ることができない」
グラインはレイニー侯爵の頭を掴み、顔を上げさせる。
「これで目が合ったな。話をしよう。お前たちは、魔法王が死んだことを知り、王になろうとした。合っているな?」
「ち、違う」
「違うのか?」
「私が王に、なりたいわけではないのです。こいつらが」
「……と、言っているが?」
今もグラインを睨み続けている兄妹に振ってみる。
「思えば、こうやって顔を合わせるのは初めてだったな。一応、自己紹介をしておこう。俺は、グライン。グライン・シューレン。ま、シューレンの名はいずれ捨てて新たな名を名乗る予定だ」
「……ふざけるな……もう国王気取りか! 貴様のせいで、僕たち兄妹がどのような目に遭ったのか!」
「名乗るくらいをしろ。俺は、お前の名前さえ知らない」
「――っ、き、貴様」
「俺は、会話が成立しない奴と話をするつもりはない。やることもたくさんある。待たせている方々もいる。力を貸してくれる彼らにも余計な時間をかけさせたくない。もう一度だけ聞く。名乗れ」
一方的に敵する兄妹の兄の方に最後通告をする。
グラインは、腹違いというだけの人間にさほど興味はない。
責任を取らせるのもレイニー公爵がいればいいので、声は恐ろしく冷たい。
「…………ザイザルだ。僕にはシューレンは名乗れない。名乗るな、と言われている」
「そうか。では、ザイザル。これからの話をしよう」
通りすがりの陛下「――ビンとビンが出会うとき、新たな物語が始まる!」
シリアス先輩「どうしたの急に!? 暑さで脳がやられたの!?」
通りすがりの陛下「なんとなくである!」
シリアス先輩「あ、はい。ところで、グラインくんは私との相性がいいなぁ!」




