96「騎士と戦います」
「――グライン・シューレン! 貴様が我が主を卑怯にも不意打ちしたことはわかっている! 私は、コーレン公爵閣下の仇を打つため、この命が尽きるまで戦い続けると宣言しよう! そして貴様の喉を噛みちぎると誓おう!」
「……バインツ殿、久しぶりだな。相変わらず、あなたのコーレン公爵への忠義は厚く、重いな」
バインツ騎士は、黒金の鎧を身につけた体格の良い巌のような厳しい顔をした白髪を短く刈り込んだ中年男性だった。
抜き身の使い込んだロングソードを片手で握る姿は、歴戦の騎士で間違いなかった。
(……シューレン魔法国でもこういう人がいるんだね)
魔力を感じ取ることができるので、魔法騎士だろう。
バインツの立ち振る舞いを見れば、身体強化魔法による剣術であることがわかる。
サムと同じシンプルな戦いを好むようだ。
「――俺が、あなたの主人を殺したんだよ」
「……貴様が? まだ幼い少年が、我が主人を両断したというのか?」
「そうだね。あと、成人しているから。立派な成人です。十五歳です」
サムが前に出る。
「幼い少年であることはかわらん。グライン・シューレン! 貴様はこのような子供に戦わせ、高みの見物をするというのか!」
「バインツ殿、サミュエル・シャイト殿をあなどるな。彼こそが、魔法王ルルカス・シューレンを殺した男だ」
「――な」
バインツの目が見開かれ、サムをまじまじと見た。
「そうか。あの醜く超えた化け物を殺したのは貴様、いや、貴殿か。よくぞ殺した。あの男は、この国の中でも屑の中の屑だ! 貴殿が主人を殺していなければ、強く抱きしめていただろう!」
「それは遠慮するよ。一応、聞くけど、降伏は?」
「無論、しない」
「だろうね」
「我が主人も、悪党ではあったが、それでも領民を飢えさせたことはない」
「悪党ではあったんだね」
「この国で善人は死んでしまう。悪党でなければ生き延びられないのだよ」
「なるほど。進んで悪党になったわけじゃないってことね。でも、悪党は悪党だ。お前たちのせいで苦しんだ人も、悲しんだ人もいる。領民を飢えさせなかったとしても、他の領地の人たちを、王都の人たちを無視していた。それは許されない」
「言ってくれるな! 貴殿の力で殺した者にも家族や友がいる。悲しませ、苦しめていないとは言わせぬぞ!」
「そんなことわかっているさ。わかった上で、俺は敵を殺す。敵となるべきものは殺す。俺の家族、仲間たちのために喜んで戦い、殺そう」
「――よい覚悟だ。私が貴殿の年齢だった時にそれほどの覚悟ができていただろうか?」
バインツが構える。
サムも構えた。
「コーレン公爵家所属、筆頭騎士バインツだ。覚えておくとよい」
「スカイ王国宮廷魔法使い、サミュエル・シャイト」
バインツが驚いた顔をする。
「まさかスカイ王国の宮廷魔法使いと戦えるとは光栄だ! 貴殿はよほど優れた魔法使いなのだろうな!」
「俺もあなたのような武人と戦えて嬉しいよ。覚悟はいいかな?」
「それはこちらの台詞だ! ――――いざ!」
バインツが地面を蹴った。
鎧を着ているとは思えない速度だった。
身体強化魔法を限界まで使い、最高の一撃でサムを殺すつもりなのだとわかった。
ならば、サムも最高の一撃で応えよう。
「――死ねいっ、我が仇!」
「――全てを斬り裂く者」
サムの右腕がバインツのロングソードと鎧ごと肉体を横に斬り裂いた。
「…………見事、すばら、しい」
「あなたも」
音を立ててバインツが地面を転がる。
臓物と血を撒き散らしながら、広がっていく血溜まりの中で満足そうな、それでいて悔しげな顔をして絶命した。
サムは正々堂々戦った武人に黙祷を送った。
補足:コーレン公爵は「まあまあマシ」な貴族でした。ただ、魔法王の立場を奪われている過去から、いろいろ拗らせているので魔法王になったとしてもあまり良い政治ができなかったでしょう。そのストッパーがバインツ騎士でしたが、限界はあります。
領民は飢えることはなく、差別も少なかったですが、魔力のない者の扱いは王都ほどではないものの奴隷として労働はさせられていました。




