95「貴族を倒します」②
サミュエル・シャイトは確実な手応えを感じ、ガッツポーズをした。
「よし! とりあえず、ひとり!」
王都と近隣の領地をつなぐ街道で、公爵家の馬車が旗を掲げて堂々と現れたので千手必勝とばかりに攻撃をしてみた。
馬車ごと斬り裂かれた初老の男の亡骸を見て、兵士たちが叫んでいるのが確認できた。
「グライン様、あの人が公爵でいいですか?」
「あ、ああ、コーレン公爵で間違いない。魔法王の叔父なのだが」
遠見の魔法を展開して斬り殺された男の顔を確認しながら、グライン・シューレンはただ驚くことしかできない。
「サミュエル殿は魔法を使わずとも、あそこまで離れた人間を視認できるんだな」
「さすがに視力を強化していますよ」
「強化……遠見の魔法ではないのか。いろいろと規格外だな」
数キロ離れている対象を、しかも馬車の中にいる人間を的確に斬り殺すことができる人間が何人いるだろうか。
グラインも魔法はそこそこ使えるが、もっと近づいてから魔法で馬車ごと攻撃する以外の手段がない。
味方だとサミュエル・シャイトはあまりにも心強いが、敵になった瞬間これほど恐ろしいのかと身震いする。
グラインは、スカイ王国と戦わない道を選んだことを正しい選択であると改めて確信した。
「おや、意外と兵士が逃げたりしませんね。忠義が厚いのでしょうか?」
魔王遠藤友也が散り散りにならない兵士たちに少しだけ感心したような声を出すが、グラインが否定した。
「おそらくですが、コーレン公爵の近くにバインツという騎士がいるため兵士たちが逃げられないのでしょう」
「バインツとは?」
「名のある騎士です。ただ、魔法王に王位を奪われたコーレン公爵と古くから親交があったので王都での浄化から逃れたのでしょう。彼は、コーレン公爵に忠誠を誓っています。公爵が殺されたのであれば……」
「敵討ですか」
「必ず、そう動くでしょう」
グラインの予想どおりに、ことが動いた。
騎士と思われる中年の男性が、馬に乗って兵を率いてこちらに向かってくる。
「シューレン魔法国は屑ばかりだと思っていたけど、忠誠を誓う人間を殺されて仇討ちしようと思える人間がいたんだね」
サムはどこか感心したように、頷き、向かってくる兵士たちを迎え撃とうとして、やめた。
「サム? どうしたのかな?」
ギュンターが不思議そうに問いかけた。
「ちゃんと顔を見て戦おうと思って」
「君らしい。では、それまでお茶にしようじゃないか」
「さすがにやめとけって。もうお茶飲んだじゃん。あの人たちが来た時にティータイムしていたら間違いなく激昂すると思うよ?」
「それはそれで正常な判断ができなくなるので良しではないかと思うのだがね」
サムは、シューレン魔法国の兵士をいたずらに消耗させるつもりはない。
彼らが戦うべきだという意見もあるだろうが、疲弊した国の中で、それでも新しい未来のために戦おうと決めた者たちが、こんなことで傷つく必要はないと考えている。
「とりあえず、俺に任せてください」
サムがグラインをまっすぐに見て願う。
「……サミュエル殿にお任せする」
「ありがとうございます」
苦い顔をしつつも、グラインはサムに任せてくれた。




