90「トラブルの予感です」
ウォーカー伯爵家へ帰宅したサムを出迎えてくれたのは執事だった。
「お帰りなさいませ、サミュエル様、ギュンター様……魔王遠藤友也様がお越しくださいました」
「教えてくれてありがとうございます。友也はどうしていますか?」
「……急にラッキースケベをした挙句、ローションを撒き散らして汚れたためお風呂に入っていただいております」
「何があったの!?」
安定のラッキースケベ大魔王で安心する。
ただ、執事的には仕事が増えたのだから、お怒りなのだろう。
額にお青筋が浮かんでいた。
「とりあえず、友也がお風呂から出るまで部屋で待っているね」
「承知しました。あと」
「うん?」
「友也様とご一緒に、カリアン様、アマリア様、レーネ様が転移しスカイ王国に戻ってこられました。サミュエル様へご挨拶をとおっしゃってくださいましたが、お出かけ中でしたので……神殿に向かいました」
祖父カリアン・ショーンは友也の弟子となったアマリアを養女として、彼女の母レーネと共に保護をすると決めた。
サムたちも、反対はしなかった。
ちょうどよく友也がスカイ王国に転移したので、一緒に来たのだとわかる。
アマリアはシューレン魔法国に良い思い出がないはずだ。ならば、そんな国から早く出てスカイ王国で幸せになってほしいと思う。
「わかりました。いろいろお世話かけます」
「いえいえ、これが仕事ですから」
執事は一礼すると、去っていく。
「とりあえず、友也が風呂から出るまで部屋でお茶でも飲もうか」
「そうだね。ちょうどよく陛下からもらったビン茶があるのだが」
「いーらーなーいー!」
なぜこの変態はぎゅんぎゅんワインといい、ビン茶といい、常にもっているのだろうか。
いや、変態だからだろう。
サムは尋ねることなく納得した。
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「お待たせしました! いやぁ、まさかローションまみれになるとは思ってもいませんでした! 思いがけず、足の伸ばせるお風呂に入れてよかったです」
ほかほかと身体を温めた友也がサムの部屋にやってきた。
「よう、友也。お迎えありがとう」
「やあ、変態魔王……いや、ローション大魔王くん」
「お待たせてしました。……ローションは不幸な事故だったんです!」
「なぜローションまみれになったのかは聞かないにしておくよ。それで、あっちはどうなっているの?」
一晩で大きく変わることはないだろうが、気になる。
グライン・シューレンはどうしているのだろうか。
子供たちはどうしているのだろうか。
「大きな変化はありません。神殿関係者のおかげで人材は足りています。オーネィ殿の支援物資も行き届いていますし、しばらくは問題ないでしょう。ただ」
「ただ?」
「王都の外にいた貴族が、王都の異変を気づいたようですね。間違いなく、これから動きますよ」
「……早かったね」
「ええ、早かったです」
「無駄な戦いとかしたくないんだけどな……貴族たちが馬鹿じゃないことを願うよ」
サムはどこか疲れたような顔をした。
――しかし、王都に向かってくる貴族は馬鹿ばかりだった。




