80「綾音の気持ちです」
「恋バナねぇ。復活してちょっとしか経っていないし、そういうのはないわよ」
結局のところ、綾音の答えはこうだった。
しかし、リーゼはなんとなくだが、彼女が自分たちに遠慮しているような気配を感じ取った。
「綾音っち」
「……本当にその綾音っちで通すのね。まあいいけど。で、なによ?」
「ここには女性陣しかいませんので、ぶっちゃけお尋ねしますが」
「だからなによって」
「サムのことをどう思っていますか?」
「あー、なんというか、可愛いわよね」
意外と素直に綾音は打ち明けてくれた。
「成長を見守るのは楽しいし、一緒にいて悪くはないわよ。……もしかして、私がサムのことって思っていたりするの?」
「ええ、実は」
「そんな感じがしていましたわ」
「あとはきっかけだけかなと」
「…………うん、まあ、好きよ。サムのことは、好きよね。ただ、どういう好きかはちょっとわからないのよねぇ」
綾音は瞳を輝かせて話を聞いているリーゼたちに苦笑する。
今更サムへの想いを隠すつもりはない。
もともと憎からず思っていた。
気軽に会話できて、口喧嘩もできて、サムの前世がサムエルであることなど抜きにして好ましく思っている。
漠然と、なんだかんだと一緒にいるだろうなとも思う。
かつて、綾音は守る側だった。
勇者として、戦い続け、守ってもらうことは数えるほどしかない。
当時の想い人だったサムエルも、共に戦う戦友だった。
そんな綾音にとって、誰かを守っても守られることはなかった。
しかし、サムは違う。
フィーン小国とシューレン魔法国を相手に、綾音を渡さないと守ってくれた。
守ってもらうまでの相手ではないなどと無粋な感情は湧かなかった。
この世界に生きる人間が、自分のために国を相手に啖呵を切ってくれたのだ。
心にくるものがあったのは言うまでもない。
――日比谷綾音はサミュエル・シャイトに明確な好意を抱いている。
――だが、それを愛情と言っていいのか悩む。
――そもそも、綾音にそんな資格があるのかと迷う。
「……綾音っちの素直な感情を聞けてよかったです」
「そう?」
「ええ、私たちだからこわかることですが、時間の問題ですね」
「……どういうこと?」
「サムに好意を抱いたら、気づかぬうちに愛情になっています。私たちがそうでしたから」
アリシアとステラが満面の笑みで頷いている。
「一度でも自覚してしまえば……サミュエル・シャイトからは逃げられないのです!」
「なにそれこわい!」
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「オフェーリア様もそうでしたの?」
「え、ええ、まあ、そうですわね。サム様はその魅力的ですし、いてほしい時に近くにいてくれますし……一緒に過ごせば過ごすほど惹かれていきましたわ。クリー様は?」
「ふふっ、わたくしとぎゅんぎゅん様は赤い有刺鉄線で結ばれていますので、運命の出会いの瞬間からわたくしは、ぎゅんぎゅん様の子供を産むためにこの世界に生を受けたのだと理解しました」
「…………えぇぇ。やっぱりこわいです、この方」




