間話「アマリアの想いです」
アマリアは、母レーネが静かに眠るベッドを見守っていた。
初めて、お腹いっぱいになった。
初めて、母以外の誰かに優しくしてもらった。
初めて、強く抱きしめてもらった。
――アマリアにとって、今日の出来事は生涯忘れないだろう。
家名を持たない奴隷だった。
同じようにシューレン魔法国に生まれたのに、民として扱ってもらえなかった。
毎日が寒い。寒さで肌が切れても、痛みを我慢するだけ。
痛いのは平気だ。
もっと痛いことをされている。殴ったり、蹴られたり、酷いことをたくさんされた。
逃げようなんてことを考えたことはない。
母がいるから、ではなく、逃げようと思えるような余裕がアマリアにはなかったのだ。
同じような境遇の人間が多かったせいもあるかも知れない。
そんなアマリアだったが、母と支えながら生きてきた。
ほんの少しの食料を分けながら、夜は抱きしめて眠る。
それだけでよかった。
それ以上のことは求めていなかった。
だが、そんなアマリアは貴族にあっさりと捕まった。
何かをしたとかではない。
貴族が「遊ぶ」奴隷が欲しかっただけだ。
アマリアは知らなかったが、その貴族に連れて行かれて帰ってこられた奴隷はいない。
そのことを知ったのは、寒い牢に入れられて、虐待を受けてからだ。
きっとこのまま死んでしまうのだろう。
病弱な母のことだけが気がかりだった。
しかし、もう体力も気力もない。
食事もなく、衛生面も最悪で、傷のせいで熱も出ていた。
すべてを諦めていたとき、アマリアは――サミュエル・シャイトに助けられた。
汚れた身体を抱きしめてくれた彼の温かさを忘れることはないだろう。
母と共に、他の奴隷たちも解放されて、初めて食べた温かな食事と温かな服に涙を流したことも絶対に忘れない。
何よりも、「ラッキースケベおじさん」を名乗った少年との出会いも、生涯忘れることはないだろう。
彼は自分の中に「才能」を見出してくれた。
魔法とは違う、とても素敵な力があるのだと教えてくれた。
言葉の途中途中でラッキースケベと言っている意味も、ラッキースケベの意味もわからなかったし、ちょっと怖かったが、酷いことをした貴族への怖いとはちょっと違う。不思議な感じだ。
アマリアは後日、この国を出ていく。
救ってくれたサムの祖父であるカリアン・ショーンの娘となり、母と一緒にスカイ王国に保護される。
スカイ王国で、勉強できると聞き嬉しかった。
いろいろなことが待っているだろう。
大変なこともきっとたくさんあるはずだ。
それでも、今日という奇跡を得たアマリアは頑張ろうと決めていた。
助けてくれたサムに、弟子にしてくれた友也に、養女にしてくれたカリアンに、そしてよくしてくれた人たちに報いることができるように努力するのだ。
「…………おかあさん、わたし、頑張るね」
アマリアは自分のために用意してもらったベッドの中に潜る。
こんなに寒くない日は初めてだ。
――ありがとう。
アマリアは今日出会った全ての人たちに感謝しながら、ゆっくりと眠りについた。
ちなみに、アマリアは後に友也を師匠と呼びながら、ちょっと困ったお兄ちゃんと慕うようになり、友也は初めての弟子と妹分にデレデレになります。
シリアス先輩「それってかなりシリアスじゃね?」
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