72「マニオンのケジメです」①
スカイ王国の辺境にある修道院。
綺麗な水が流れ、畑が広がるのどかな土地をマニオン・ラインバッハは見渡していた。
「――ここに母がいるんだね」
ヨランダ・ラインバッハは強制労働刑を受けていたが、現在は場所をこの地に移されている。
その理由はいくつかあるが、やはり、一番はヨランダ自身が弱ったせいだろう。
強制労働刑は、死刑ではないが殺すための刑罰だ。
過酷な環境下での労働は、遅かれ早かれ死ぬ。
確実に死ぬのだ。
単に死ぬまで牢獄に入れるだけでは、済ませることができない犯罪者に過酷な罰を与えるために刑罰である。
ヨランダは、マニオン・ラインバッハの母親であり、息子をそそのかして強盗殺人を企てた。
マニオンにも罪はある。だが、大人であり、親でありながら、マニオンに殺人をするように指示していたヨランダの罪はあまりにも大きい。
被害者家族、襲撃した領地からは死刑が望まれていたが、強制労働刑となったのだ。
要は苦しんでから死ね、と判断されたのだ。
「……弱ったフリなのか、それとも本当に弱ってしまったのか。僕にはわからないけど、記憶にある母は弱るような人じゃなかったんだけどな」
父カリウス・ラインバッハの最期は知っている。
サムと戦い、満足して死んだ。
マニオンはサムに感謝していた。
決して、父とは良い関係とはいえないマニオンだったが、可愛がってもらった記憶はある。
剣の手解きも受けた。
傲慢になったマニオンに、カリウスが見限っただけである。
当時は、恨んだが、今は恨みはない。むしろ、不出来な息子で申し訳ないと思っている。
カリウスはサムが最期を看取ってくれた。
ならば、ヨランダはマニオンが看取るべきだ。
愛情と戦いの女神ヴァルレインによって、母が移送されたことを聞いた。
労働場であれば、監視の目があるが、修道院は緩い。
ただ、ヴァルレインは「会う必要はない」と言った。
それがどのような理由であるかは、ヴァルレインのなんとも言えない顔を見ればわかった。
それでもケジメをつけなければならない。
ゆっくり修道院に近づく。
気配を消したマニオンに気づく者はいない。
護衛もいるが、ただの兵士が数人だ。
修道服に身を包んだ女性たちが、畑仕事から、日常の仕事をしている。
どうやら、この地では自給自足のようだ。
事前情報では、牢獄の代わりにこの修道院があるということだけ。
正直、マニオンにはそこまでこの地に興味はない。
用事があるのはヨランダだけだ。
静かに修道院に入り、気配を探ってひとつの扉をあけた。
小さな個室。
しかし、白い清潔な部屋だ。
ベッドに横たわる痩せ細った女性がいた。
まだ四十手前であるはずが、老女のように見えた。
「……母上」
マニオンがヨランダを呼ぶと、彼女の目だけが動いた。
「……だ、れ?」




