52「陛下たちも来ました」①
「お待たせ、ビンビンである!」
広場に戻ってきたサムたちを出迎えてくれたのは、クライド・アイル・スカイとスカイ王国民、魔王、そしてシューレン魔法国の王子であるグライン代行だった。
「……あ、気が抜けた。張り詰めていた糸が切れちゃった」
怒りで強張っていた身体から力がしゅるしゅると抜けた。
青牙と青樹も同じようで、力が抜けてしまっていた。
「――サム、大変だったようだな」
「旦那様」
ジョナサンが声をかけてくれる。
「フォーン小国には万が一に備えて、ローガン殿とデライトを置いてきた。一番置いておきたい人物がついてきてしまっているが、もう諦めた」
「ははは」
ジョナサンの視線の先には、炊き出しを始めているクライドの姿があった。
そこには、カリアン、メイ、朱雀丸に、霧島薫子と赤金茜もいる。
「とぅんじる、という異世界の食事を振る舞ってくれるそうでな。野菜をたっぷり煮込んだ、栄養のある食事のようだ。東方から仕入れたみそという食材が良い匂いがするんだ」
「さすが薫子さんと茜さんだ。やっぱり寒い日の炊き出しには豚汁だよねぇ」
「ところで、その子供は」
「実は――」
サムはジョナサンに説明をした。
公爵家の屋敷に食料を奪いに行ったところ、地下室で囚われていた奴隷の子供がいたので保護をしたこと。
屋敷で働く人たちは誰ひとりとしていなかった。
悪人ゆえに焼かれたのか、主人が死んだことで逃げ出したのか判断ができないが、いないのなら、と食料は全部奪った、と。
「この国は相変わらずだな……」
ジョナサンが苦虫を噛み潰した顔をした。
彼が知るシューレン魔法国も、ひどい国であると聞いているが、時間を経ても変わっていない。
むしろ、悪くなっていた可能性だってある。
「他の屋敷にも同じような境遇の子供がいると思われるのですが」
「ならば、私が行ってこよう」
「旦那様が?」
「サムは、少し休みなさい。エヴァンジェリン様、綾音殿から聞いたが、ルルカス・シューレンと戦い、マニオン・ラインバッハと戦ったみたいじゃないか。肉体的に問題がなくとも、精神的に疲れてしまっているのではないかと不安だよ。いつも戦わせてすまないと思っている。こういう時こそ、頼って欲しい」
サムはジョナサンの申し出をありがたく受け入れることにした。
「よろしくお願いします」
「任せておきなさい」
ジョナサンが笑顔を浮かべ、サムと少女の頭を撫でて貴族の屋敷に向かった。
そんなジョナサンと入れ替わるように、ロイグ・アイル・スカイが来る。
「お疲れ様、サム」
「お父さん」
「これを飲みなさい。温まるよ。そちらのレディーには、ぬるいお茶だ。まだ食事の用意ができていないので、乾きを癒し、温まって欲しい」
「ありがとうございます。一応、聞いておきますけど、ビン茶じゃないですよね?」
「東方のお茶だよ」
「じゃあ、いただきます」
サムが一口お茶を飲んで見せると、少女がごくりと喉を鳴らした。
ぬるいお茶が入ったコップをロイグから受け取り、少女の口元に運ぶ。
少女は恐る恐る舐めるようにぬるいお茶を飲んだ。
すると、涙をこぼした。
「慌てなくていい。落ち着いて少しずつ飲むんだ」
サムの言葉に少女は頷き、素直に少しずつ喉を潤し、身体を温めたのだった。




