50「女神エヴァンジェリンです」②
「――女神様、どうか我らをお救いください」
「いや、ちょっと待て、待てって!」
服と言えない布を纏った人間たちが、どこからともなく出てきてエヴァンジェリンを前に膝をつく。
彼らよりもマシな身なりをしている人間も続いて、現れ同じように跪いた。
「どうか、どうか、我らをお救いください」
「……待て、マジで待て、わけがわからないんだけど! ダーリン、助けて!」
「――エヴァンジェリンさんマジ女神!」
「ちょっとダーリン!?」
親指を立てたサムに、エヴァンジェリンが悲鳴を上げた。
「――え? 嘘、こいつらも私をスルーなの?」
綾音は、女神ヴァルレインに続き、またしてもスルーされてしまったことにショックを受けている。
「今更だけど、まずいよね。王族貴族が兵をあげてくる可能性も」
「それはないぜ、ダーリン」
「どうして?」
「私がブレスで、焼いた」
「…………んんん?」
サムはシューレン魔法国王都の街並みを見る。
寂しい街並みであるし、サムが戦ったせいでいくつか建物が倒壊しているが、焼かれた形跡はない。
「どういうこと?」
「私が悪党と決めた奴らだけを全て焼いたってこと。王都限定だけど」
「……すごくない?」
「ダーリンほどじゃないけど」
「いやいやいやいやいや」
「いやいやいやいやいや」
サムにしてみたら、ブレスで焼く対象と焼かない対象を選別できるなどありえない。
エヴァンジェリンにしてみたら、竜のブレスが効かない神の使徒を容易く切り殺したサムはありえない。
どちらも規格外すぎることは間違いない。
「とりあえず、ダーリン。こいつらに」
「うん。わかっているよ」
エヴァンジェリンを女神と呼び、集まった人々はやせ細っている。
食べていないのが簡単にわかった。
身体も決して清潔とは言えない。
だが、まずは食事だ。
生きる活力を与えなければならない。
サムはアイテムボックスから、食料を取り出していく。
人々がまるで奇跡でも見たように目を丸くした。
虚空から食料が出てくれば、奇跡に見えるのかもしれないが、自分を拝むのはやめてほしいとサムは苦笑いだ。
すでに、フォーン小国の兵士たちに食料を与えたため、食料のストックは少ない。
それでも、とりあえず集まった人たちに一食分くらいは与えることができる。
「綾音さん、女神パワーで食料を持ってきて」
「あいよ! って、んなことができるわけないでしょう! 便利な転移能力はないの!」
「え? でも」
「何を言ってるの? サミュエルが、エヴァンジェリン様が大変だからって、距離を切ったんじゃない!」
「――嘘ぉ」
「無意識にやっていたのね……傷も斬ったりしているのに、こわっ、無意識こわぁ! これ意識的にできたら、こわぁ!」
綾音が食料を受け取り、魔法で野菜の皮を一瞬で剥き、切り分ける。
「では、私たちが食材をとりにいってこよう」
「ていうか、貴族や王族ぶっ殺したのなら、そいつらが持っている食料を奪っちゃえばいいじゃない」
「……ナイス、青樹さん! それ採用!」
そう言ってくれたのは、青牙と青樹だった。
ふたりは民を庇い負傷していたが、サムのおかげで今は無傷だ。
戦いが終わるまでずっと民を守ってくれていた。
「ふふん!」
「まるで蛮族だな。だが、苦しむ民を救うためなら、仕方がない。きっと魔法少女ならそうする!」
「青牙、あんたね。魔法少女にすっかり染まったわね」
「キャサリン師のおかげだ」
「……私の特に可愛いわけではない双子が変態になった件」
青樹は大きくため息をつきながら、青牙と共に目につく屋敷に食料を強奪しに向かった。




