49「女神エヴァンジェリンです」①
ぷくっ、とサムは思い切り頬を膨らませていた。
「……サミュエル、あんた。なに子供みたいに、不貞腐れた顔をしているのよ?」
「ぶうっ」
「かわいいわね……」
綾音がサムの頬を突く。
だが、すぐにまた膨らませる。
何度かそんなことを繰り返していた。
「どうせ、サミュエルの弟だっけ、あの子と最後まで戦えなかったことが不満なんでしょう?」
「うん。せっかく面白くなってきたのに。なんか、高揚感もすっかり冷めちゃった」
サムは気づいていなかったようだが、綾音には、彼の瞳が青く輝いていたことを知っている。
その瞳も、いつものサムの黒い瞳に戻っていた。
綾音は、なぜサムの瞳が輝いていたのか知らない。
彼の前世である、サムエル・カイトにもそのような現象はなかった。
綾音の推測では、サムの鋼の力は、サムエルよりももっと高いところにいると思われている。
サムの方がずっと強い相手を、ずっと能力を多用してきた。その経験が、覚醒した鋼の力を押し上げているのだろう。
そして、青く瞳が輝くと同時に、サムの能力は研ぎ澄まされていた。
察するに、あの時のサムが一番強い状態だと思われる。
今のサムはいつものサムだ。
戦いに水を差され、膨れっ面をしているサムだった。
「弟が使徒だったり、女神が介入したりと忙しいわね」
「しかも、エヴァンジェリンさんが女神にロックオンされてるしね」
「それだよ!」
エヴァンジェリンがサムと綾音の間に割って入った。
「あのヴァルレインとかいう女神、私のことを女神だなんだって! 変態たちに崇められて女神になれるわけがないだろう!? ねえ、ダーリン!?」
「……とっても言いづらいんだけど、以前、世界の意思さんと会ったときにエヴァンジェリンさんに神格が宿りつつあるって言っていたから、もう神様なんじゃ」
「…………マジ?」
「……うん、マジ」
エヴァンジェリンは、黒髪を掻きむしった。
「変態に信仰されて変態によって神格を得て、変態によって神様にされるとか、私の長い時間の中で変態と関わったのは一年も満たないのに濃いんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
エヴァンジェリンの叫びが、シューレン魔法国の空に響き渡る。
サムもそうだが、一年の間に色々なことがありすぎた。
長命種であるエヴァンジェリンにとっては、一年など人に比べたら短く感じるだろう。そんな一年に起きた多くのことに、ただ驚くしかないとわかる。
「ていうか、あの女神! 本物の女神を差し置いて、エヴァンジェリン様を女神だなんて!」
「……綾音さんは元女神でしょう?」
「一応、ジャンル的にはいまも女神よ! 立場的にはシスター見習いだけど!」
「エヴァンジェリンさんに仕えているのはかわらないじゃん」
「そりゃそうだけどぉ!」
「つまり、エヴァンジェリンさんのほうが格上!」
「ちょ」
「ダーリン!?」
「神様に認められたエヴァンジェリンさんは神様になった! スルーされた綾音さんは一般人! それでオッケー!」
難しく考えても仕方がないのだが、サムも今になって疲れてきたので雑に話を終わらせた。
エヴァンジェリンはもちろん、綾音は納得できていないようだが。
「ところで、エヴァンジェリンさんはどうしてシューレン魔法国に」
「ああ、それは――」
サムの疑問に、エヴァンジェリンが答えようとした時、
「――女神様!」
シューレン魔法国の民たちが、現れエヴァンジェリンに向かいひれ伏した。
「――は?」




