43「初めての兄弟喧嘩です」②
「よし! せっかくの兄弟喧嘩だから、肉体でやろうぜ!」
「臨むところだよ!」
魔法を使わずに、拳を握りしめた。
サムが地面を蹴ると、マニオンも同じように拳を握り、走る。
両者の拳が顔面に刺さった。
鼻血が噴き出す。
だが、恐れることはない。
このくらいでは死なない。
お互いに、拳を繰り出し続ける。
唇が裂け、瞼が切れた。
鼻から鈍い音がして、さらに血が流れる。
自然と蹴りが出た。
サムの足が鞭のようにしなりマニオンの脇腹を捉える。
肋骨を折った感覚があった。
だが、マニオンは足を踏ん張って、蹴り返してくる。
お返しとばかりにサムの脇腹に蹴りが刺さる。
身体強化をせずとも固くなっている肉体に、確実なダメージが襲ってくる。
「――ははっ」
サムは笑った。
「はははっ!」
マニオンも笑う。
不謹慎だが、楽しかった。
もっと早く兄弟喧嘩をしておけばよかった、とさえ思う。
「強いな、マニオン」
「……兄さんこそ。僕の知る兄さんの何倍も強いね」
「いろいろあったからね」
「そうらしいね。あまり知らないけど、大変だったみたいだね」
「ははは、一年間でよくもこれだけのことが起きると思ったよ」
マニオンの拳がサムの顔面に、サムの爪先がマニオンの鳩尾に刺さった。
サムは鼻を抑えた。
マニオンは、口元を抑え、その場に膝をつき、血を吐き出す。
「ああ……強いね、強いね、兄さん」
「回復魔法は?」
「使えるよ」
「じゃあ、使えよ。今度は魔法で喧嘩しよう!」
「僕たちが魔法で戦えばこの街が」
「そんなことどうでもいい! 俺は、今、お前だけしか見ていない。つまらないことを言うな」
「ははは、戦闘狂め! いいだろう! 僕の――」
「――そこまでにしておけ、マニオン」
マニオンの背後から、無粋な声が響き、水を差した。
「今のお前では勝てぬ。まだ精進が足りない。やはり、格上の相手と闘ってきたサミュエル・シャイトは強い」
白い手が伸びてマニオンの頬を撫でた。
「……はい。ヴァルレイン様」
「そう落ち込む声を出すな。私は、満足している。短い時間で、お前は強くなった。使徒として素晴らしい強さを得た。だが、まだ強くなれる。だから、引け。他にすることがあるだろう?」
「わかりました、ヴァルレイン様」
白い手が優しくマニオンを撫でると、彼の傷が消えた。
あまりにも一瞬のことで何が起きたのかサムにもわからなかった。
「声だけで、失礼するぞ、サミュエル・シャイト」
「愛情と戦いの女神ヴァルレインだったな」
「ヴァルレイン様、と呼べ。不敬者め」
不敬者と言いながら、ヴァルレインの声は明るい。
「強き戦士よ。一度だけ、誘おう。――私のものとなれ」
「おとといきやがれ!」
「残念だ。私はお前を気に入ったんだがな」
「知るか!」
「つれない男だ。まあいい。ならば、次に相見える時は、マニオンがこの世界の楔を破壊し、私が降臨する時だな」
「させないけどね」
「それもまた一興。頑張るといい」
「上からだなぁ」
「神だからな」
ヴァルレインはどこか会話を楽しんでいるようだった。
「それで、あんたはマニオンを使徒にして、楔を壊して、この世界で何をしようとしているんだ?」
サムの疑問に、ヴァルレインの声が弾んだ。
「――この世界の唯一絶対の神になりたい」




