42「初めての兄弟喧嘩です」①
「なんだよ、それ?」
サムは笑った。
「なんだろうね?」
マニオンも笑う。
「実を言うと、不意打ちしようと思ったんだよね。一応は僕も神の使徒だから、やることをやらないといけない契約だからさ。魔法王……ぷっ、ぷはっ、ま、魔法王を兄さんが殺して力を抜いたでしょう。その瞬間、殺せるかなーって思ったんだけど、多分斬られちゃうなっって」
「それで、真正面から戦おうって?」
「うん。兄さんに強くなった僕を見てもらいたいかなって思ったんだよね」
マニオン・ラインバッハから、悪意をまったく感じない。
カリウス・ラインバッハもそうだったが、本性は戦いにおいて真っ直ぐな人間なのかもしれない。
少しだけ、残念に思う。
マニオンは強い。
それは、見ればわかる。
だからこそ、使徒になるのではなく、人として、手に入れて欲しかった。
あの愚かな母親の支配下から逃れ、強くなって欲しかった。
「いいね。思えば兄弟喧嘩もしたことがなかったね」
「そうだね」
「少し、思うことはあるんだ。鬱陶しくても突っかかってきたお前を受け止めてやるべきだったんじゃないかなって」
「……きっと、当時の僕じゃ何もかわらなかったさ」
「そっか」
「うん」
サムは、大きく息を吐き出した。
次の瞬間、大きく右手を振るう。
同時に、マニオンも虚空から剣を抜き薙ぐ。
「――全てを斬り裂く者」
「――神剣・ストフォルテ」
斬撃と、神剣が重なる。
「あらら」
「おっと」
斬り裂けなかった。
とても、硬い。
むしろ、競り負けている。
サムの腕に、マニオンの神剣が食い込んで血を流していた。
「兄さん、本気を出していいんだよ?」
「お前こそ」
サムは蹴りを放ち、マニオンは剣を握っていない方の腕で拳を放った。
蹴りと拳がぶつかる。
その勢いで、両者は後方へ飛んで距離を取った。
サムは地面に着地する僅かの間に、傷を斬り殺した。
「出鱈目だなぁ」
「ありがとう。褒め言葉だよ。そっちこそ、ちょっとその剣強すぎるでしょう。でも、振り回されていない。とても努力したのがわかる」
「嬉しいよ、ありがとう」
サムは人差し指をマニオンに向ける。
マニオンはサムの意図がわからず首を傾げようとして、目を見開き、大きく屈んだ。
サムが人差し指を横にスライドさせると、細い斬撃が走る。
避けきれなかったマニオンの肩を斬り、背後にあった建物を横に両断する。
全てを斬り裂く者ではない。
ただ斬ろうと思って斬っただけだ。
「……それはずるいよ」
「いやぁ、だって俺は――鋼だからね」
初めての兄弟喧嘩に、サムもマニオンも楽しそうに笑った。




