41「マニオン・ラインバッハです」
マニオン・ラインバッハは愛情と戦いの女神ヴァルレインによって、使徒に選ばれた。
死者であるマニオンは肉体をもらい、鍛えてもらった。
女神ヴァルレインは何を思ったのだろうか、マニオンに対し献身的に面倒を見た。
その一環として、かつて自分を裏切った妹と世界への復讐をさせたのは、マニオンでも引いた。
マニオンは最初こそ選ばれた存在であると驕った。
生前、母によって選民思想をこれでもかと植え付けられた時よりも、驕った。
だが、すぐにその驕りは消えた。
――女神ヴァルレインが怖かったのだ。
ヴァルレインは、千年を超える時間が経ちながら、実の妹とかつての仲間を恨み続けている。
世界のために戦い続け、世界統一したところを殺されたのだ。
恨むのもわかる。
だが、それほど恨みが持続するのか、と疑問だ。
何よりも、復讐内容が恐ろしい。
裏切り者を殺すのではなく、死なせないのだ。
何度殺しても、生き返ってしまう。
終わりのない悪夢。
ヴァルレインが怖いのは、裏切り者だけではなく、世界に生きるすべての人間に同じように不死を与えたことだ。
飢えても、病になっても、死ねない。
それはどれだけの苦痛なのか、マニオンにはわからない。
マニオンは、ヴァルレインに言われるまま、彼女の世界の人間を殺した。
ヴァルレインに逆らうことなどできない。
彼女の妹がマニオンに何かを言おうと、何度も現れるが、「何か」を聞いてしまったら後戻りができないと思い、殺した。もちろん、すぐに生き返り、訴えようとする。
もし、ヴァルレインの不況を買って、死ねない苦痛を与えられたらどうしようと必死になって、戦った。
そして、強くなった。
強くなってしまった。
力を得て、自分を客観的に見た。
長い時間、戦うだけの日々だったせいで、思考も変わってきた。
そして、考えたのだ。
「僕はなぜサムを恨んでいた?」
何もされたことはない。
むしろ、母の介入によって数える程度だったが、遊んでもらったことがある。
当時のことを、なぜか忘れていたが、今なら思い出せる。
マニオンにとってサムは優しい兄だった。
そんな兄に、酷いことをたくさんした。
幼い頃から、母にそうしろと言われ続けたいせいもある。
幼少期のマニオンにとって、目を血走らせて唾を飛ばしながらサムへの恨みを吐き出す母が怖くて怖くて仕方がなかったのだ。
今、思えば母の気持ちも少しわかる。
母は、サムを見ていない。
サム越しに、サムの母であるメラニーを見ていたのだ。
父が愛していたメラニーを、勝手に憎んでいたのだ。
サムにはとばっちりもいいところだ。
一度従ってしまったマニオンは、母の言いなりだ。
洗脳という教育で、剣の使えないサムは弱者であり、使える自分は強者だった。
その後のことは、どうでもいい。
マニオンは自分で何も考えず、母の人形として生きていた。
たくさんの罪を犯した。
反省もできないまま死んだ。
――当然のことだと思う。
母という楔がなくなり、時間があったせいか考える余裕ができた。
精神も以前より成長したことから、マニオンは初めて己を恥じたのだ。
愚かなことをした。
罪のない人を殺した。
たくさんの人を傷つけ、迷惑をかけた。
償えるのものなら償いたい。
しかし、今は使徒だ。
使徒なのだ。
もうサムに対して、逆恨みの感情はない。
むしろ、サムがずっと羨ましかったのだと自覚した。
剣が使えずとも魔法が使え、メイドたちや民からも愛されていたサムが羨ましくて羨ましくて仕方がなかったのだ。
――――だから、僕は。




