17「運命の出会いです」②
「うん?」
そろそろ森を抜けて、隣の領地に足を踏み入れようとしたとき、サムの耳に誰かの息遣いが届いた。
「誰かいるの?」
返事はない。
しかし、間違いなく、人の呼吸音がする。
万が一、不意打ちにモンスターに襲われても構わないように、身体強化魔法をかけているので聴力も増している。
聞き間違いではない。
間違いなく、人間が近くにいる。
「呼吸が弱々しいな。誰か、怪我人でもいるのかもしれない」
困っている人がいるのなら放置するという選択肢はない。
サムは、神経を研ぎ澄まして、人の気配がする方向に進んでいく。
幸い、モンスターはいないようだ。
声を出してみようと思ったとき、サムは探し人を見つけた。
「――いた」
大木に背中を預け、力なく地面に座っている女性だった。
「――っ、女の人だ」
緑の森の中に、炎のような緋色の髪がよく目立っている。
灰色のローブを纏った姿は、まさに冒険者といういでたちだ。
しかし、荷物のようなものを持っていない。
もしかすると、モンスターに追われて、逃げてきた可能性もある。
「あの」
「ん?」
「――――っ」
女性が顔を上げると、サムが息を飲む。
美しい女性だった。
前世、今世合わせて、一番の美女だと言っても過言ではない。
年齢は二十歳ほどだろうか。
燃えるような緋色の髪、汚れない白い肌、すらりとした肢体は実にバランスがいい。
鼻梁や眉、瞳は精巧な人形のように整っている。
なにより目を引いたのが、髪と同じ色をした力強さを感じる瞳だ。
(――まるで炎のような人だ)
サムの中から警戒心が消えてしまった。
炎に吸い寄せられる蛾のように、ふらふらと近づいていく。
気づけば、彼女を見下ろせるほど近くに立っていた。
「あの、どうかしましたか?」
声をかけるだけで緊張する。
よくよく考えれば、領地を出て初めて出会った人だ。
彼女が何者なのかわからないが、声をかけずにはいられなかった。
「ん」
「怪我でもしたんですか? 手当が必要ですか?」
「――た」
「え?」
ぼそり、と女性はなにか呟いたようだったが、サムは聞き取れなかった。
どうやら声を出す気力もないようだ。
しかし、彼女の瞳だけはギラギラと輝いている。
そんな彼女の瞳に誘われるまま、サムは顔を近づけた。
「大丈夫ですか?」
「――った」
まだ声は弱々しい、なにを言っているのかわからない。
すると、女性の手が伸び、サムの胸ぐらを掴むと、整った唇を近づける。
「――腹減った」
なにを言われたのか理解できなかった。
思考が止まる。
そんなサムに、もう一度彼女が言った。
「腹減った。なにか、食べさせて」
どうやら女性は怪我をしたのではなく、空腹で倒れていたようだ。
サムの緊張が霧散していくのがわかった。
はぁ、とサムはため息をつくと、バックを背中から降ろして彼女のために食料を取り出したのだった。
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