3「女子会です」①
ある晴れた日の午後。
夏も近づき、日差しが少し強くなってきた。
庭の植物たちも青みを増し、花々も元気よく育っている。
そんなウォーカー伯爵家のテラスで、サムの婚約者たち四人が集まりお茶会を開いていた。
ウォーカー伯爵家の次女で、サムの子を身篭っているリーゼロッテ・ウォーカー。
今までは快活さを見せるパンツルックな服が多かったが、今はすこしゆったりした白いワンピースに身を包んでいる。
動きやすさを重視してブロンドのロングヘアーをひとつにまとめていたリーゼだが、今はその髪を自由にさせている。
凛とした雰囲気の女性だったリーゼだが、サムと結ばれたことをきっかけに柔らかくなったと周囲から言われるようになった。そして、妊娠が判明したことをきっかけに、その柔らかな雰囲気に母性も感じるようになったという。
宮廷魔法使い第一席紫・木蓮の孫娘の紫・花蓮。
いつもと変わらぬチャイナドレスを連想させる花の刺繍を施した白い民族衣装を身につけ、ボリュームのある桃色の髪をアップにまとめた女性だ。
あまり感情を表に出すことを得意としておらず、言葉も淡々と喋るのだが、内面は意外と感情的のようで、とくに戦闘に関わると子供のように目を輝かせる一面を持つ。
サムの強さ、優しさに引かれて、告白をしたことで彼に受け入れられて婚約者のひとりとなった。
元剣聖雨宮蔵人の娘、雨宮水樹。
袴姿に編み上げブーツを履いた、日の国の血を引く黒髪の女性だ。
長い髪を三つ編みにした、どこかサムの前世日本を思わせる落ち着きのある人だった。
彼女の傍には、刀が立てかけられており、この場にいる女性たちを守る役目も担っている。
元剣聖の父親に幼少期から鍛えられた剣技の実力は、この国でも上から数えたほうが早い実力者だ。
父がサムと決闘したことをきっかけに、人質としてサムの婚約者となったが、水樹自身がサムを気に入っていたので、あまり深刻なことにはなっていない。
ウォーカー伯爵家も、あくまでもサムの婚約者のひとりとして扱ってくれている。
そして、スカイ王国第一王女ステラ・アイル・スカイ。
絹のようなシミひとつない肌と、白髪を腰まで伸ばした端正な容姿の少女だった。
婚約者たちの中で、十六歳と最年少であるため、若干の幼さも感じさせる。
髪の色に負けないくらい白い肌と、華奢な四肢は保護欲を誘う。
スカイ王国王族の血族に多く見られる青みのかかった髪に生まれなかったステラは、それだけの理由で不義の子ではないかと噂されていた。
両親は気にしていなかったが、他ならぬステラ自身が気にしていまい、王女と誰もが認めてくれるよう勉学に励み、引きこもっていた。
しかし、サムとの出会いによって、もっと広い世界を見ようと決意し、部屋から出るようになった。
最近では、両親との時間を大事にし、乗馬など体を動かすことも積極的に始めたという。
そのおかげか、明るくなったと言われている。
そんな四人の婚約者が一同に集まるのは、今日がはじめてだった。
「こうしてサムの婚約者が集まるなんて、サムと出会った頃には思いもしなかったわ」
リーゼが、サムと初めて出会ったときのことを思い出しながら、しみじみ言う。
思い返せば、亡き姉を抱えて王都に来た少年は、悲しみに満ちていて放っておいたら姉の後を追ってしまうのではないかと心配した。
そんなサムに体術を教えてやってほしいと姉に頼まれたのをきっかけに交流を持ち、ひたむきな彼に少しずつ惹かれていったのだ。
「わたくしもですわ。ずっと部屋に閉じこもっていたわたくしが、こうしてサム様の婚約者となり、皆様と一緒にお茶をするなんて、少し前には考えられませんでした」
ステラが嬉しそうに微笑む。
サムと出会わなければ、今も頑なに部屋に閉じこもっていただろう。
「わたしも誰かの婚約者になるなんて考えてなかった」
「僕もかな。あまりこういうことを意識したことはなかったから」
花蓮は宮廷魔法使いの木蓮の孫としてしか見られないことを不満に思い、結婚相手に強さを求めた。
その条件をクリアしたものはおらず、感情を表に出そうとしない花蓮と親しくしようと努力する者もいなかった。
サムだけが、花蓮と笑い合い、優しく接してくれて、そして強さまで見せてくれたのだ。
水樹も剣に生きている少女だったが、父が自分を後継者にしてくれないことを悩んでいた。
紆余曲折はあったものの、サムと父が戦ったことで、それらの理由を知ることができた。
父が家族を大切に思っていたことを知ることができたのは、サムのおかげだろう。
「そうでした。お手紙では書かせていただきましたが、直接お伝えしていませんでしたね。サム様とのお子様を身篭ったこと、おめでとうございます。少しだけリーゼが羨ましいです」
「ありがとうございます、ステラ様。でも、ステラ様も、いいえ、三人とも時間の問題だと思いますよ」
「まぁ」
リーゼの言葉に、三人が驚きと期待に満ちた顔をした。
サムの婚約者になったものの、まだ三人と彼の関係は清いままだ。
リーゼのように、一歩進んでいるわけではない。
だが、婚約者となった以上、いずれはサムと、と思わないはずがない。
「サムは寂しがり屋なので、どうか優しくしてあげてください」
「えっと、でも、いいのかな?」
水樹がリーゼに問う。
サムにとって一番がリーゼだとわかっているため、三人には若干の遠慮があるのだ。
「私のことは気にしないでほしいの。みんな奥さんになるのだから、平等に愛してもらわないといけないわ。私はみんなで幸せになりたいの」
この中で、一番大事にされているのはリーゼかもしれないが、彼女は自分が本当の意味で一番ではないとわかっている。
今は亡き姉こそが、サムにとって最愛の人。
そのことを悪く思ったことはない。
亡くなった姉のことを大切に思ってくれているサムだからこそ、リーゼも愛したのだ。
「私がサムを独占するつもりはないのよ。これからはあなたたちもサムとの時間を過ごしてくれたら私も嬉しいわ」
リーゼの言葉に、三人は安堵したような気恥ずかしいような顔をした。
リーゼが自分たちをサムの婚約者として認めてくれるのが嬉しいのと同時に、彼と関係を一歩進めるというのもなかなか勇気がいることだ。
「サム様と……少々気恥ずかしさがありますわ」
「うん。ちょっと恥ずかしい、かも」
「そうだね。僕はまずデートをするところからはじめたいかな」
「それがいいと思うわ。あなたたちのペースでサムとの関係を進めてね」
「ですが、リーゼ」
「なんですか、ステラ様?」
「わたくしたちの今後の参考のために、サム様との甘い日々を教えてくださいませんか?」
「――え?」
ステラの希望を受け、リーゼが固まる。
「わたしも気になる。ふたりのいちゃいちゃはときどき聞こえてくるけど、ちゃんと知りたい」
「僕も、今後のために教えてほしいかな」
「……サムには内緒ですよ」
キラキラと目を輝かせて興味津々のステラたちに、苦笑しながらリーゼが頷いた。
すると、「きゃー」と黄色い悲鳴が上がる。
リーゼは紅茶を口に含んで喉を潤すと、期待に満ちる婚約者仲間にサムのことを話しはじめた。




