16「運命の出会いです」①
「あー、なんて解放感なんだ! これが、自由かー!」
ラインバッハ男爵家のある町から出たサムは、ひとり森の中を歩いていた。
新しい人生の一歩を踏み出したせいもあって、気分は軽く、爽快だ。
ようやくあの不愉快な家族から解放された喜びは多い。
きっと向こうも、サムがいなくなったことを知れば諸手をあげて喜ぶに違いない。
「これからは冒険者として世界中を旅しよう。せっかく異世界に転生したんだ、嫌ってほどこの世界を楽しんでやる!」
目指すは隣の領地だ。
ど田舎のラインバッハ男爵領と違って、隣の領地はそれなりに栄えていて、王都とも行き来があるそうだ。
サムの目的はまず王都だ。
王都に行けば、冒険者の依頼も豊富だと聞く。
魔法の才能がある人間なら誰でも入学できる魔法学校の門を叩くのもひとつの選択肢かもしれない。
「そういえば、この世界ってダンジョンとかあるのかな? やっぱり異世界っていったらダンジョンでしょ」
まだ見ぬ世界にワクワクが止まらない。
冒険者として仲間を募り、ダンジョンに挑み、財宝を得る。
生前の幼い頃、何度も遊んだゲームのようだ。
「勇者とか魔王っているのかな? あー、でも、魔王との戦いとか聞いたことないんだよねぇ」
勇者や魔王の存在も憧れないわけではない。
いるなら会ってみたいとも思う。
しかし、魔王がいれば、人間と戦っているかもしれないし、そうなれば、戦争だって起こりうる。
人が苦しむのは好きじゃない。
たとえそれが、見知らぬ人たちだとしてもだ。
サムは、この世界に転生した当初、この世界を夢のようなものだと考えていた。
それこそ、いつか目が覚めて地球に戻れる、とも。
そんなサムを、この異世界が現実だと認識させてくれたのが、ダフネをはじめとするラインバッハの人々だ。
彼女たちは生きている。
ファンタジーの住人ではなく、現実の人間だ。
そして、なぜ転生したのか不明ではあるが、サムとなった自分もまたこの世界に生きるひとりの人間なのだ、と。
ゆえに、サムはこの世界を見て回りたい。
多くの人が住まうこの世界を、自分の目でちゃんと見るのだ。
今更、地球に戻る方法を探したりはしない。
もうこれは運命だと受け入れている。
あとは、この世界でどう生きるか、だ。
「さーてと、まずは王都だ。そこから、お金を貯めていろいろな国へ行こう!」
目的が決まっていれば足取りも軽くなる。
おそらく、楽しいことばかりではないだろう。
失敗することもあれば、苦難に襲われることもある。
もしかしたら絶望することだってあるかもしれない。
だが、それが人生だ。
どの世界で生きていようと変わらない。
サムは未来に向けて、地面を力強く蹴った。
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