間話「ハンバーガーが食べたいです」①
「ハンバーガーが食べたい!」
サミュエル・シャイトは、女神エヴァンジェリン・アラヒーを祀る神殿の職員食堂でおやつを食べながら、元勇者であり元女神であり現シスター見習いである日比谷綾音と顔を付き合わせて相談していた。
「食べたい! あつあつのポテトも食べたい! マヨがあるならケチャップだってあっていいのに!」
「わーかーるー!」
本日のおやつは、お芋のタルトだ。
甘くて美味しい芋に砂糖とバター、クリームと隠し味のチーズ。香り付けにブランデーを少々入れて、ペースト状にする。型取った生地の上に乗せてオーブンで焼くと、サクサクのクッキー生地の上に滑らかな芋のクリームが乗ったお芋のタルトの出来上がりだ。
さらにお皿の上にはバニラアイスとクリームが乗っていて、入り鮮やかに飾られている。
お好みで、メイプルシロップやチョコレートソースが用意されていた。
「しっかし、薫子さんすごいな。こんな本格的なスイーツが食べられるなんて……」
「さすが薫子ママよねぇ。この間も、王都で一、二を争う料理人が雪の中土下座して弟子にしてくれって」
「さすがだねー。ていうか、うま! 日曜日に動く余力があるとスイーツ食べに行ったことあったけど、薫子さんの作ったほうがうま!」
「……そういえばサラリーマンだったわよね。やーねー、おっさんがひとりでスイーツって」
「いいじゃない!」
「私は、ハンバーガー食べてに行ってたわねー」
「……甘いタルト食べているのに、ハンバーガー食べたくなってきた」
「話が最初に戻ったわね」
「うん」
ぺろり、とお芋のタルトを食べ終えると、今度はしょっぱいものが食べたくなってしまう。
ここで、しょっぱいものを食べようものなら、今度は甘いものを食べたくなり、ループへ陥る。
結果、太るのだ。
「……殺し合ったふたりが仲良くデザートですか……なんとも言えない光景ですね」
「あ、友也だ」
「ラッキースケベだ」
「どうも」
お芋のタルトとコーヒーを乗せたトレイを持った魔王遠藤友也が、サムの隣に座った。
「お芋のタルトは初めてです。薫子さんと出会ってから、僕の食生活は充実しています。日本で生活していた頃は、ハンバーガーが主食で、お隣のおばあちゃんの和食がある意味母の味でしたから。まさか異世界で一千年生きたらこんなご褒美が待っているとは思いませんでした」
「あの、そのちょいちょい悲しいこと言うのやめて」
「どんな生活していたのよ」」
美味しそうにお芋のタルトを食べ始める友也に、サムと綾音は微妙な顔をする。
友也は、ラッキースケベという体質と、彼が見目麗しい少年であることから、いろいろな問題を抱えていた。
そのせいか両親は放任を通り越してネグレクト気味。
赤金茜の祖母など気にかけてくれる人はいたが、友也は小学生、中学生とお世辞にも良い日々を過ごしたとは言えない。
「僕もハンバーガーはやろうと思ったんですよね」
「そうだったの?」
「ええ。こっちにきたばかりの頃、お金もなくて一儲けしようと思いまして。しかし、基本的にハンバーガーばかり食べていましたし、赤金のおばあちゃんが作ってくれた料理は和風だったのでどうしても再現できなかったんです。なので、ハンバーガーです」
冒険者を相手に、サンドイッチのように手に持ち食べられるハンバーガーは受けると思ったのだ。
間に挟まっているのはハンバーグなので、食べてもある。
友也は「これだ!」と思ったようだ。
「しかし、駄目でした」
「なんでよ?」
「料理をまともにやったことのない僕が、知識だけで上手くいくわけがないじゃないですか。漫画じゃないんですから、現実は厳しいんですよ」
「……異世界なのに夢も希望もないわね」
「やりたい放題した挙句女神になったあなたには死んでも言われたくないセリフですね」




