間話「赤金茜のこれからです」②
「――私、働きたいんです!」
赤金茜は、女神エヴァンジェリンを祀る神殿を訪れ、聖女霧島薫子と会っていた。
茜と薫子は微妙に日本で過ごしていた時間に違いはあるが、この世界では同級生だ。
薫子は茜を気にかけていて、茜も薫子の好意をありがたく思っていた。
「とてもいいことだと思うよ。私も、最初はスカイ王国に保護されて衣食住を保証してもらっていたのだけど……駄目になりそうだったもの」
「わかる! 何もしなくてもご飯が出て、部屋の掃除をやってくれて、貴族のお姫様みたいな生活が続いたら……絶対ダメ人間になる自信がある!」
二人が話をしている場所は、神殿の中の和談室だ。
エヴァンジェリンを支える一部の人間の休憩室な形の部屋だ。
十二畳ほどの部屋に、テーブルと椅子が置かれている。
セルフサービスであるが、お茶は自分で淹れるように魔道具のコンロやポット、茶菓子なども置かれていた。
「よかった、薫子さんが私と同じで。私だけだったらどうしよって思っていたの」
「あははは……戸惑うわよね。友也くんは各地を転々としていたからあまり気にしていないようだけど、やっぱり魔王だけあってお金はたくさんあるし、人を使うのは上手いし、いくつかある拠点も貴族のお屋敷と変わらない感じみたいよ」
「うわー」
「サムくんだって、庶民派って本人は言っているけど、良くも悪くも気にしていないもの。例えば、普通のご家庭の家で問題なく暮らせるけど、貴族のお屋敷でも問題なく暮らせるのよね」
「気にしなさすぎの気もするんだけどなぁ」
「そうよね。それでも、サムくんのお父様が残した屋敷……今はシャイト伯爵家になっているけれど、さすがにそこは屋敷が大きすぎるからって生活しにくいらしいわ。今の、ウォーカー伯爵家の日々を気に入っているってこともあるんでしょうけど」
「サムくんも立派な貴族ですもんね」
茜はウォーカー伯爵家で世話になっているが、天蓋付きのベッドや、柔らかすぎるソファーに慣れなかった。食事もテレビで見たコース料理のようなものが多いため、大変だ。
メイドが控えているというのもなかなか気疲れする。
あまり気を遣わなくていいとやんわり言っても「大切なお客様になにかあったら」と言われてしまうと、相手も仕事なのだと「一人にしてください」とは言えない。
サムがやんわり付きっぱなしじゃなくていいよと言ってくれたので、部屋の中に使用人がいることは無くなったが、それでもなにかあったときのために隣室に控えている。
茜は知らないが、サムはもちろん、ウォーカー伯爵家の面々は「できることは自分でやる」がモットーだ。
しかし、それはそれ、これはこれ、である。
大事なお客様に自分たちのモットーを押し付けるつもりはなく、一般的な貴族の屋敷の振る舞いとしてもてなしているのだ。
「というわけで、働きたいんです。ウォーカー伯爵家にお世話になってばかりだと申し訳ないですし、この世界と向き合うには、やっぱり外に出て人と触れ合ってみたいなって」
「とてもいいことだと思うわ。――じゃあ、こうしましょう。とりあえず、私のお店でアルバイトしてみない?」
良い暮らしをするっていうのはアリかもしれませんが、メイドさんが控えているってちょっと困りますよねってお話です。




