エピローグ「ロイグの理由」①
「あははは! すごい、すごい! ねえ、君も見てごらんよ! うわー、神や竜がいるからゴーレムがいてもおかしくないんだろうけど、壮観だねぇ!」
ロイグ・アイル・スカイは、オークニー王国の王都から離れた、スカイ王国との国境の山中にある集落にいた。
彼の背後には集落の人間と思われる住民たちがいる。
誰もが眠るように目を閉じて、息絶えていた。
「ねえねえ! ちょっとこっちにきて見てごらんよ!」
「……うるさい」
ロイグと共にいるのは、かつてオークニー王国に勇者として召喚され、好き勝手やった結果、サミュエル・シャイトによって倒され、自業自得の死を迎えた葉山勇人だ。
彼は苛立った様子だったが、ロイグに手招きされて横に並んだ。
すると、急に歪んだ笑みを浮かべた。
「笑える。この国もう終わりじゃん」
「どうかな? 山がゴーレムだったのは驚きだけど、あの山って意外と邪魔だったんだよね。国や住む人たちにとっては実りの山だったんだけど、冒険者や商人にとっては険しい山だからねぇ」
「ふぅん」
「ま、でも、オークニー王国が終わりっていうのなら、それはゴーレムのせいじゃなくて、周辺諸国のせいだよ」
「どういうことだよ?」
「――君のせいだよ」
ロイグは冷たい目で勇人を見た。
氷のように冷たい目で見据えられ、勇人が無意識に二歩下がった。
「君の言動がスカイ王国を敵にした。同盟こそ破棄されなかったけど、ま、国と国の問題もあるからね。だけど、西側の小国たちが攻めてきても助けてくれない。それどころか、オークニー王国を飛び越えてスノーデン王国と交流をしている。このままじゃ、時間の問題だね」
「ふん。僕のせいだっていうのか。僕だって被害者だぞ」
「あはははは」
「何がおかしいんだ!」
「魅了の力で女の子を好き勝手して、人妻、婚約者がいる娘、未亡人、君が少しでも気に入った女性を弄んできた君が、被害者だって? あまり笑わせないでほしいな」
「…………貴様」
「あ、そういうのいいから」
拳を握った勇人に、ロイグは興味がないとひらひら手を振る。
「僕たちは平等じゃないよ。君は力をもらったのかもしれないけど、僕と君じゃ地力が違う。雑魚が力を持っても雑魚なんだから、無理しないでね」
「言わせておけば!」
「だからそういうのはいいんだって。困ったな、若い子ってすぐこうやって怒るのかな?」
ロイグは勇人を嫌悪していた。
元王子という立場もあり、弱者を虐げて悦に浸る人間が反吐がでるほど嫌いだ。
なぜこのような人間に力を与え、使徒にしたのか不明だが、不愉快極まりない。
屑は死んでも屑だ。生まれ変わっても、その性根が変わるわけがない。
「さてと、君の相手は面倒臭いから、この集落を燃やして帰ろう。寒いからね、暖かいスープを飲みたいよ」
「…………まあいいさ。ところで、こいつらは何だ?」
「君ね、知らずに殺したのかい?」
「貴様が手伝えと言ったんだろう!」
「そりゃそうだけど、ちょっと引くなー」
「この」
「ごめんごめん、こいつらはナジャリアの民っていうんだ。聞いたことないかな?」
「――魔王レプシー・ダニエルズの狂信者だよね」
「そうそう」
ふたりは移動して、倒れる亡骸を担ぎ一軒に集める。
「魔王レプシーが魔術を教えただけで、勝手に復活を願っている馬鹿たちなんだけど、そもそも話おかしいと思わないかな?」
「なにが?」
「人間を憎んで滅ぼそうとしたレプシーが、なぜ魔術を教えたのか、ってね」
「それは」
「ナジャリアの民もレプシーもすべて「あれ」の手のひらで踊らされていただけだよ。いやぁ、嫌なやつが上司になっちゃったねぇ」
「ま、まてどう言う意味だ!?」
「あれ? 知らないの? レプシーはナジャリアの民を「なぜか」憎まなかった。ナジャリアの民は「なぜか」レプシーを父としたい復活させようとした」
「……神の力か」
「ただの精神干渉だよ。「あれ」はレプシーを生きたまま利用しようとしたけど失敗した。結果、干渉もなにもできず、元気いっぱいなレプシーが別世界に生まれ、こちらの世界に戻ってきた」
「敵が増えたってことか?」
「正解! 馬鹿だねぇ、なにもしなければよかったのに。いつだって「あれ」は失敗ばかりする。ひとつのことしか見えてないから、他が疎かなのさ。思いつきで行動するから。ま、その思いつきが人間や魔族にとって恐ろしいほど迷惑ってわけなんだけどね」
「……貴様の話はよくわからない。僕の知らないことを知っているのか?」
勇人の疑問に、ロイグは答えなかった。
「ふん。いいさ。それで、いつサミュエル・シャイトを殺しに行くんだ?」
「君さ、僕は春まで待機って言ったよね?」
「知るか!」
「サムはこれから子供が生まれるんだ。そっとしてあげようって思わないのかい?」
「――っ、まさかステラと結ばれたのか!」
「ステラ・アイル・スカイどころか、えっと、待ってね、数えるから」
「他はどうでもいい! 僕のステラに手を出したんだな! 許さねえ、サミュエル・シャイト! 殺してやる!」
「……いや、君のじゃないんだけど」
「うるさい!」
「君ねぇ……君は魅了にかかっていないのに最後まで君を愛し抜いた王女様に申し訳ないと思わないのかい?」
「僕が望んだわけじゃない」
「あ、そ」
やってられない、とロイグは肩をすくめ、そして勇人の胸を腕で貫いた。
「――え?」




