53「陛下のお出迎えです」①
「ただいまー」
「うむ。よく帰ってきたのである!」
スカイ王国のウォーカー伯爵家に戻ってきたサムを出迎えたのは妻や婚約者ではなく、クライド・アイル・スカイ国王陛下だった。
「…………あ、はい。お出迎えありがとうございます」
「うむ。サムは可愛い義理の息子であり、甥っ子でもあるのだ。気にすることはないのだよ」
サムとしては、冷えた身体で帰ってきた自分を労ってくれるリーゼたちがいるとばかり思っていたのだが、クライドが両手を広げて待っている姿に、ちょっとしょんぼりした。
おそらくハグ待ちだろう。
応じなければ永遠と待っていそうだったので、サムはクライドの身体を抱きしめた。
「うむ。おかえりである」
「ありがとうございます」
(――俺はなんで義理の父親とハグしているんだろう?)
謎すぎた。
「……なにやってるんだ?」
「うむ。ウルもおかえりである。さあ、ハグを」
「――寒くて体力奪われているんだから余計なことさせんな! このビンビン王!」
「どふっ」
サムに遅れて転移してきたウルにもクライドが両手を広げて出迎えたが、スノーデン王国でストレス発散できなかったウルに蹴り飛ばされてしまう。
「ちょ、ウル!? こんな人でも王様なんだから!」
「私は寒いんだよ! おっさんとハグする趣味もない! 風呂行ってくる!」
「……ウルもだが、サムもさらりと酷いのである」
ウルはさっさと風呂場に行ってしまうと、なにもなかったようにクライドが立ち上がる。
「……案外タフですね」
「これでもそれなりに場数は踏んでいるのであるよ」
「なるほど。それで、なぜ陛下自らが出迎えてくれたんですか? ていうか、まだウォーカー伯爵家にいたんですね」
「そなたたちにスノーデン王国に行かせているのが心配だったのであるよ」
サムはクライドと共に、自室に移動した。
ソファーを進めてクライドに座ってもらうと、アイテムボックスから暖かいお茶を取り出してティーカップに注ぐ。
「どうぞ」
「ありがとう」
サムも、ソファーに座ってお茶を飲む。
冷えた身体が内側から温まる。
だが、カロリーが足りていないと思い、薫子が作ってくれたキャラメルを口に放り投げた。
「甘すぎず、しみるぅ」
口の中でキャラメルがとろけて至福だった。
サムは健康体だ。歯も同様に虫歯もない。おかげでキャラメルを思う存分食べても、銀歯が抜けるというアクシデントが起きることはないのだ。
「すみません、俺だけ。陛下もよかったら」
「いただくのである。――む。これは……実に美味であるな。気を抜けば、アヘ顔ダブルピースをしてしまいそうである」
「絶対に気を抜かないでくださいね!」
なにが悲しくておっさんのアヘ顔ダブルピースを見なければいけないのだ、とサムが嘆息する。
キャラメルをふたりでもっちゃもっちゃ食べ、口の中が幸せになった。だが、幸せは長くは続かない。あっという間にキャラメルが溶けて無くなってしまった。
「ごちそうさまでした」
「名残惜しくあるが、本当に美味であった」
サムも少し落ち着きを取り戻した。
「さて、スノーデン王国の話を聞かせて欲しいのである」
「はい」
「友也殿にお聞きしたが、ビンビン王位争いが始まったようだな」
「……ええ。ビンビンかどうかはさておき、バーブリン公爵家が王を名乗ってバーザロフ敵対関係にある公爵家に襲撃かけていました。バーザロフ公爵はスレイマン様の支援者であり、グレゴリー陛下のご友人であるようでしたし、あの国では珍しいまともな貴族だったので味方しました」
「うむ。紛らわしい家名であるな!」
「ですよね」
公爵家の問題を話して、感想はそれか、と肩を落とす。
だが、サムも紛らわしい家名だと思っていたので同意した。
スレイマンに聞いたところ、公爵家は元はひとつの大きな一族だったらしい。そこからいろいろあって別れ、かつての一族の名にちなんで家名ができたらしい。
「ですが、バーブリン公爵家はもう終わりでしょうね。もともとネイモン・スノーデンを担ぎ上げていたそうですし、王を名乗って公爵家に襲撃です。バーザロフ公爵なんてこれを機に殺してしまおうと息巻いていましたよ」
「――ふむ。その辺りは、我々ではなくグレゴリー殿の判断に任せるしかないのであるな」
「政治はごめんです」
サムが肩をすくめると、
「私もだ」
クライドも同じように肩をすくめた。




