52「扱いが困ります」②
バーザロフ公爵は、手早かった。
当主を失ったバーブリン公爵の家族を捕縛し、軟禁した。
バーブリン公爵についた貴族たち、グレゴリー国王とスレイマン殿下、リーリヤ王妃の生存を告げると、彼らは顔を真っ青にした。
当たり前だ。死んだと思っていた王子が、王と王妃と共に生きていたのだ。
しかも遠く離れたスカイ王国に保護されたとか、意味がわからなかったはずだ。
貴族たちは口々に、バーブリン公爵に騙されたと叫んだが、バーザロフ公爵が一喝すると静かになった。
すでにバーブリン公爵が死んだこと、味方をした貴族たちの扱いはグレゴリー陛下の判断を待つこと。結論が出るまで、この屋敷から出ることを許さないことを、脅しを込めて告げていく。
無理やり自分たちの屋敷に帰ろうとした貴族もいたが、同行していたサムに殴り飛ばされ、ウルの魔法で脅され、友也にラッキースケベられたら静かになった。
じっとしていれば、食事は与えるし、沙汰が出るまで身の安全は保証すると説得し、ようやく貴族たちは従った。
兵士たちは、簡単だった。
バーブリン公爵に仕えている騎士はさておき、兵士たちは食糧のために即席で集められた民だった。
生き残った兵士たちは、サムが持ってきた食糧、飲み水、酒を家族の分渡すことを約束したら、膝をつき、涙を流して降伏した。中にはサムに忠誠を誓うとまで言い出したものまでいた。
バーブリン公爵家に仕える騎士は、公爵に忠誠を誓い甘い汁を吸っていた者と、家族のために耐え忍んでいた者がいた。
食事こそは両者に与えたが、今後助けるのならば、後者のみだろう。
兵士たちに聞き取りをして、隠れて生活している子供たち、動けない年寄りや病人、助けを必要としている女子供の情報を得て、彼らの分の食料を持って会いに行った。
最初こそサムたちを警戒していた民だったが、飢えには勝てず、たとえ毒が入っていたとしても食べたいと泣きながら食べた。そして、サムの善意に気づき、感謝して泣いた。
バーザロフ公爵の使っていない屋敷を開放してもらい、王都に住まう民を集めた。
時間はかかったが、王都からレプシー、ゾーイ、ボーウッド、エリカ、ヴァルザード、赤金茜、鳳凰院朱雀丸、日比谷綾音、モンド・ムンド、ダニエルズ兄弟がカルミナ・イーラの転移魔法によって応援に来てくれたおかげで、取り残された者はいないと思われる。
自らの意思で、助けを拒んだ者もいたが、望んでいない者を助けることはできなかった。
先日、子どもたちを保護した際、食料をよこせと襲撃してきた大人たちも、今回は助けた。
彼らは自分たちにも食料を分け与えられたことにひどく驚いていた。彼らは、サムが殺したリーダー格がいなくなってからは、助け合って生きていたそうだ。もっと周囲と助け合って生きていればよかった、と後悔する日々だったらしく、サムが現れたときには殺しにきたと思ったようだが、手を差し伸べたら涙を流し、感謝した。
結局のところ、誰もがスノーデン王国と寒さに苦しめられていたのだ。
「バーザロフ公爵が話がわかる人でよかったよ」
サムは、小休憩しながらカリアンと共にいた。
窓の外を見ると、薄暗くなっている。雪と風も強くなっていた。
「彼は、貴族の中では善人ですよ。誇り高いと言うべきでしょう。グレゴリー陛下のように、自らの食事を制限し、家人に食べさせていました。綺麗事はいくらでも言えますが、実際にできる人は少ないのです」
「そうだね」
「この国は……酷い。寒さが、貴族が、民に優しくない」
「寒さは自然のことだからどうしようもないけど、人間は人間がどうにかできると思うよ。むしろ、いままで手を打たなかったのはなんでかなって思うよ」
「サム……政治や貴族のありかたは簡単なことではありません。殺して解決することは意外と少ないんですよ」
「わかっているけど、苦しんでいる人が多いともどかしいよ」
サムは強い。
強いゆえに、力で解決しようとしてしまう。
これは師匠であるウルにも通じることだ。
だが、少しずつ学んでいかなければならない。
もっと賢いやりかたを。
「兄貴!」
「あ、ボーウッド」
「ここにおいででしかた。兄貴のお祖父様も、お疲れ様です」
「いいえ、ボーウッド殿もお疲れ様です」
獅子族の獣人ボーウッドがサムとカリアンに恭しく挨拶をする。
「なにかあったの?」
「へい。魔王遠藤友也が一度スカイ王国に帰ろうと言っていまして。兄貴たちは連日大変でしたから、この国の民のことは俺たちに任せてくだせえ」
「だけど」
「スレイマン殿下もまだ体調が万全ではないようでして。民のために頑張っておられていましたが、限界が近いそうです。無理をさせてもいけやせん。幸い、民は保護していますし、食料も兄貴のおかげでしばらくあります。万が一のことが起きても、俺たちがいれば問題ないでしょう」
戦神でも降ってこなければ、ボーウッドひとりでも問題ないだろう。
サムは素直に彼らに任せることにした。
「ありがとう、ボーウッド」
「なんのなんの」
「俺になにかできることは?」
「……でしたら、ウイスキーを何本か都合していただけないでしょうか?」
「いいよ」
アイテムボックスから十本ほどウイスキーの瓶を取り出した。
紙袋も三枚出し、ボトルを入れて手渡す。
「ありがとうございます。強い酒飲んで会話を重ねることも大事でしょう。兄貴の留守の間に、スノーデン王国の民と仲良くなってみせまさぁ!」
にぃっ、と笑うボーウッドはとても頼りになる。
サムは彼に任せて、一度スカイ王国に戻るのだった。




