45「まともな貴族もいるようです」
ヒョードル・バーザロフ公爵は、痩せた身体に鎧を身に纏い剣を強く握りしめていた。
「……おのれ、バーブリン公爵め……まさか王を名乗るとはなんたる不敬ものだ」
数人の騎士が背後に控えながら、バーザロフ公爵は怒りを覚えていた。
数日前、何者かの襲撃があり、王宮が消えた。
よほどの使い手だったのだろう。
公爵家も衝撃で、ガラスがすべて割れてしまい、現在は板で応急処置をして冷気が入り込まないようにしている。
だが、まさか、その応急処置のための板が、矢から身を守る手段となるとは思っていなかった。
「……旦那様、遣いの者が降伏し、王と認めるのであれば命までは取らないと伝えてきたそうです」
「……ふざけるな! バーブリン公爵は、グレゴリー様に毒を持ったネイモン王子を王に押し上げて傀儡にしようと企んだ男だぞ! そんな屑を王として認めることなどできぬ!」
ヒョードル・バーザロフは、スレイマン第一王子を次期国王として推していたこともあり、ネイモンの強行と、それを許したバーブリン公爵家とその派閥を許せずにいる。
何度かネイモンの王になるのを阻止しようとしたが、味方であった貴族たちを懐柔されてしまい、孤立無援となった。
結局、王を名乗り始めたネイモンに蟄居を言い渡され、現在に至る。
「……仮にもネイモン王子を王にしたのならば、亡骸を探し葬儀をするなど他にあるだろうに。まさか自分が王になろうとするとは、浅はかな」
バーザロフ公爵は、グレゴリー・スノーデン国王よりも年下だが、よき友として相談相手として支えてきた。
グレゴリーが民に食料を分け与えるため、食事量の制限をすれば、同じようにした。
使用人に食事を優先させ、その家族や周囲の人間にも分け与えた。
手の届く範囲でしかできなかったのは、誰かに任せると食料を奪われてしまうからだ。
隣人が助け合えないスノーデン王国はもう終わりだと思っている。
しかし、終わるまでは見捨てられなかった。
「旦那様、兵もそろそろ限界です」
「――そうか」
妻子は隠し部屋に匿っている。
使用人の誰一人として知らぬ、このようなときのために部屋だ。
干し肉と水と酒くらいしか備蓄はないが数日は持つだろう。
その後のことは心配だが、まず、自分はもちろん使用人と兵をこれ以上失わないようにしたい。
「……バーブリン公爵と話をしよう」
「会話をして解決するとは思いませんが」
「それでもだ。最悪の場合は、差し違えても」
「……旦那様」
バーザロフ公爵は、王宮消失後、自身も加わり生存者がいないか探して回った。
知己の貴族や使用人たちの亡骸を見つけるだけだったが、王宮にいたのはネイモン王子を担ぎ上げた貴族たちばかりだった。
バーザロフ公爵にとっては政敵たちばかりだ。それでも、死んでしまえば、恨みも持続しない。見つけることができた亡骸は回収してあるが、遺族に亡骸を返すよりも早くバーブリン公爵が攻めてきてしまった。
同じ公爵でも、行動は真逆だったのだ。
「……お前たちはこの国を出るんだ」
「旦那様」
「最悪の場合は殺されるだろう。いや、この国にはもう食料さえまともにない。たいした量はないが、屋敷の備蓄をなんとか分け、オークニー国を、できるならスカイ王国を目指すのだ」
「し、しかし」
ガラス代わりに建て付けした板の隙間から屋敷の庭で戦う兵士たちを見て、バーザロフ公爵は覚悟を決めた。
「もうこれ以上、兵を失えない。――行くぞ」
そう言い放ち、動こうとした時、――轟音と共に屋敷が揺れた。
「な、何事だ!?」
立て代わりにしていた板を殴り外し、屋敷の外を見る。
そして、目を疑った。
「――幼女が大暴れしている、だと!?」
爆炎と轟音を立てながら、高笑いする少女がすべての兵を相手に大暴れてしていた。
ここだけの話ですが……実は、暴れている幼女はウルさんです。
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異世界帰りの主人公由良夏樹が勇者の力を持ってして現代日本で神や魔族を相手に暴れまくるお話です。ぜひお盆休みの読書にお読みいただけますと幸いです。
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